抄録
【はじめに】当院では、乳癌手術症例に対しクリニカルパス(以下パス)を作成し、術後1週間で退院するスケジュールで運用している。そこで、退院までの短期間に肩関節運動機能の回復と、日常生活活動(以下ADL)の再獲得が必要となったため、平成14年10月より乳癌術後のパスに合わせて、リハビリテーション部門独自のパス(以下リハビリパス)を作成し運用してきた。今回、リハビリパスの使用経験を若干の考察を加えて報告する。
【対象および方法】当院にて平成14年10月から平成15年10月までに、乳癌に対する手術を施行した女性入院患者36名、平均年齢56.2±12.1歳を対象とした。その内訳は胸筋温存型乳房切除術が14例、乳房温存術が22例であった。方法は、対象患者の術前および退院時の肩関節屈曲可動域(以下ROM)測定と術後入院期間を、乳房切除術と乳房温存術で調査しT検定にて比較検討した。
【乳癌術後リハビリパスの内容】乳房切除術と乳房温存術の2種類作成した。両パスとも術後1週間で退院予定とし、手術前日に理学療法オリエンテーションおよび理学療法評価を実施している。術後1日目は、肩関節より遠位の運動のみとし、術後2日目より肩関節運動を開始する。乳房温存術では、制限なく可及的にROM訓練を実施するのに対し、乳房切除術は術後2日目は屈曲90度までとし、その後段階的に改善を図っている。退院時にはADLに支障のないとされる屈曲160度を目標とし、達成困難であれば外来継続とする。
【結果】術後平均入院期間は乳房切除術7.9±2.0日、乳房温存術6.0±1.3日と優位に乳房切除術で長い結果となった(<0.05)。肩関節屈曲角度は、乳房切除術術前平均161.4±24.4度で術後平均152.9±22.2度、乳房温存術術前平均171.8±13.3度で術後平均169.8±9.4度と、術後ROMは乳房切除術で優位に低下する結果となった(<0.05)。退院時に目標角度に達しなかった症例は、乳房切除術で3例、乳房温存術で1例あり、外来継続を行った症例は、脳梗塞や肩関節周囲炎の既往歴がある乳房切除術の2例であった。
【考察】乳癌手術は肩関節に直接侵襲を加えないため、術後肩関節ROM制限の原因は、疼痛や恐怖心によるものが大きいとされている。今回、術前よりオリエンテーションを行うことで患者の恐怖心を軽減させ、理学療法士による運動療法により術後早期にADL再獲得が可能であった。乳房切除術は乳房温存術に比べ組織の切除量が多く、術後伸張痛が強くなるため術後ROMの低下と入院期間の延長が出現したと考える。今後、さらに入院期間の短縮化が予測される。そのため入院期間中のROM改善とADL再獲得が困難になると考えられ、退院後の運動指導の充実が課題と考える。