抄録
【はじめに】
リハビリテーション医学において障害は, ICFやDIDHといった階層的な理解が重要となる.各階層は相互に影響しあい,同一階層,又異なる階層間にあっても,因果関係を構成するものとして全体的に解釈されることが重要である.
そこで障害像が単純な構造と思われる,人工股関節全置換術(THA)後の症例を対象として日整会判定基準(JOA score)で示された縦断的データの処理に構造方程式モデリング(SEM)を適応した.術後の時間経過の中で機能障害レベルと能力障害レベルの因果関係が,横断的に捉えた場合と縦断的に捉えた場合で変化しうるとする Whyteの2型モデルの数理的確認が行えたので報告する.
【対象及び方法】
1995年から2000年までの間に変股症でTHAを受けた92例を対象として,術前,術後3ヶ月,6ヶ月,12ヶ月,24ヶ月の定期検診時にJOA scoreよる得点と股関節筋群のMMTを測定した.
統計処理では事前にSPSS11.0Jを用いて,基礎統計の確認,各得点の差の検定,因子分析,重回帰分析を予備的に行って調査項目の相互関係を把握した.その後SEMをAMOS 5.0で分析した.
SEMの解析は,次の2段階に分けて行った.第1段階は,手術側の機能レベルの項目を潜在変数「術側機能」,非手術側の機能レベルの項目を潜在変数「非術側機能」, ADLと歩行能力の項目を潜在変数「能力」として階層構造モデルを作成した.このモデルを基本構造として,手術側と非手術側の機能レベルが「能力」をどの程度反映するか,92例の縦断データを用いて経時的な変化を入れずに解析した.
第2段階では,経時的に各期にモデルを確立させて,各期のモデル間の因果関係を確認した.
【結果及び考察】
1)JOA scoreの推移
分散分析を行った結果,JOA scoreの合計点は術前で最低値を示し術後約12ヶ月以降はプラトーとなった.JOAの4項目を個別にみると,疼痛,関節可動域得点は術後早期に改善し,ADL得点は12ヶ月まで上昇しその後プラトーとなり,筋力は24ヶ月の測定最後まで段階的に有意に上昇していた.能力と機能レベルの項目では術側,非術側の筋力,ROMの順に「能力」の項目に影響していた.
2)構造方程式モデルの結果
SEMの第1段階を分析した結果,術側機能だけが「能力」を 72%有意に説明したが,非術側機能は「能力」に影響は与えていなかった.このことはWhyteの上向性モデルを示しているといえた.
一方,時期の変化を加味した第2段階分析では前回測定値の能力障害が,特に筋力に影響を与えていることが明確となり,Whyteの下向性モデルを示しているといえた.
この2つの事実は,能力障害と機能障害との因果モデルとして理解することを可能とし,併せて術後の時間経過による構造変化についても把握可能であると考えられた.