抄録
【はじめに】下肢障害などによる骨盤および体幹での補償動作が、慢性腰痛を引き起こすことは臨床上よく認められる現象である。今回、スポーツ活動で生じる骨盤および体幹での補償動作と慢性腰痛の間に関係があるのではないかと推察した。そこで、慢性腰痛群と健常群に片脚立位動作を行わせ、大転子および肩峰の移動距離を比較検討した結果、若干の知見を得たので報告する。
【対象】スポーツを行っている学生で、腰痛群としてスポーツ活動により腰痛が出現するもの9名(9名とも神経症状なし)、健常群として下肢腰部に障害がないもの7名。
【方法】被験者には、開眼で上肢を腕組みした状態で両脚立位を3秒間保持した後、検者の合図で一側下肢を股関節・膝関節90°位まで挙上し、片脚立位を行うよう指示した。身体重心の移動がみられる両脚から片脚立位への移行時間を片脚立位動作とし、健常群・腰痛群ともに、移行時間と移行時間中の両肩峰・両大転子の最大移動値を、カメラ8台と、三次元動作解析機器(VICON612:OXFORDMETRICS社)を用い測定した。これらの移行時間と最大移動値を左右3回ずつ計6回測定し、それぞれ3回の平均を身長で除して、健常群・腰痛群を比較した。
【結果】腰痛群は健常群に比べ片脚立位動作中に、支持側肩峰の外方・後方移動、支持側大転子の外方・上方・後方移動、挙上側肩峰の内方・上方移動、挙上側大転子の内方・上方・後方移動が有意(p<0.05)に移動していた。片脚立位動作時間に関しては、腰痛群は平均1.22±0.26秒、健常群は平均0.98±0.44秒で、健常群は腰痛群に比べ有意(p<0.01)に短かった。腰痛群(9例)のうち4例が片側でのみ、2例が両側で健常群に比べ移動距離の増大が認められた。なお、この片脚立位動作で疼痛を訴える者はいなかった。
【考察】片脚立位への移行中、腰痛群は健常群に比べ大転子および肩峰の移動距離が有意に大きかった。また、遂行動作時間の延長がみられた。この片脚立位動作においても差が生じた身体移動距離の増大は、歩行や走行では更なる影響を身体全体に与えると考える。しかし、今回の研究では、何らかの原因で腰痛群に生じた骨盤および体幹の移動距離の増大と腰痛の直接的因果を立証するには不十分であった。よって、ここで生じた腰痛群と健常群の差の要因、ならびに片脚立位動作時間の差の要因に関しても明確なことはいえない。
しかし、腰痛群の片側もしくは両側で生じた片脚立位動作中の不安定性と、遂行動作時間の延長がみられたことは否めない。今後更なる研究を重ね、因果関係を明らかにするとともに、歩行など動作が原因で生じる腰痛の評価、さらには腰痛予防にもつなげていきたいと考える。