抄録
【目的】肩甲上腕リズムは,胸郭の形,挙上時の抵抗によって変化することが,DOODY,FREEDMANら(1970)によって報告されている.我々理学療法士は,様々な障害に対し,治療対象を限局せず,姿勢的影響を考慮し,治療にあたる.しかし,その根拠を必ずしも持たないままに姿勢に対する改善を行っていることも事実といえる.そこで我々は,同一被験者において,異なる姿勢条件のもとに生じる肩甲上腕リズムの変化を検討した.
【対象と方法】対象は,肩関節疾患の既往及び不安定性を認めない17例33肩(男性8例15肩,女性9例18肩),測定時年齢は,24.64±1.93歳であった.測定姿勢は,1)坐位a;体幹軸(脊椎棘突起を結んだ直線)が床面に対して,垂直になるように端坐位をとらせたもの.2)坐位b;骨盤部を60度の傾斜板にもたれ骨盤後傾位をとり,胸椎棘突起列を床面に対して,垂直になるように端坐位をとらせたもの.2姿勢において,頭部を固定し,Scapular plane Nにおいて,一側自動挙上を行い,以下の点についてゴニオメーターを用いて測定した.体幹上腕角(AT)の最大挙上角度と30度毎の肩甲骨上方回旋角変化量(ST),肩甲上腕関節角変化量(GH)及び肩甲上腕リズム,Zero position適合角度を測定した.統計処理は,対応のあるt検定を用い,危険率5パーセント未満を有意水準とした.
【結果】1)肩甲上腕リズム;坐位a,1.99:1.坐位b,2.84:1.2)max AT;151.30:144.73(p<0.01).3)Zero position;131.27:126.33(p<0.01).
【考察】骨盤後傾位では,STは,AT60度以降の各区間において,有意(p<0.01)に減少を認めた.GHは,AT60から120度の区間において,有意(p<0.01)に増大を認めるものの,AT120度からmax ATの区間では,有意ではなかった.AT全領域での変化量を比較すると,ST;50.48:37.73(p<0.01)に比べ,GH;100.76:107.09(p<0.01)であり,STの減少をGHが補ってもなお,不十分であったことがmax ATの減少として示されている.調査上,AT120度からmax ATの区間において,GH増大傾向が継続する症例と減少傾向を示す症例が混在しており,これらの結果により相殺されたものと推測する.Zero positionも,ATにおいて,下方の角度で適合しており,前述のST減少,GH増大の結果が影響したと推測される.以上の結果から,骨盤後傾によって形成された姿勢は,AT60から120度の範囲において,ST減少に基づくGH増大を生じさせ,更にその最終域において,肩甲上腕関節の過剰な可動性を要求することを示しており,呈示した姿勢の変異は,肩甲上腕関節ならびにSubacromial gliding mechanismに過剰な負担を生じさせている可能性がある.肩関節疾患に対し,姿勢的影響を考慮する意義を示唆するものと考える.