抄録
【目的】
環椎後頭関節は,他の脊椎の連結部よりも複雑な構造をしており,種々の障害を呈する部位といわれている.その力学的原因による症状は,頭痛や吐き気,幻暈などを訴える方も多く,治療対象となることも多い.この環椎後頭関節は,視覚や前庭感覚とともに,平衡を支配する固有感覚として重要な役割を担っている.そこで今回,環椎後頭関節に対して関節モビリゼーションの牽引手技を加えることで,健常人における重心動揺の変化を検討したので報告する.
【方法】
対象は,神経学的・整形外科的疾患を有さない健常男性23名とした.平均年齢は,24.8±4.4歳であった.
環椎後頭関節の牽引方法は,ノルディックシステムによる手技を用いた.被験者を端座位にして,徒手にて環椎を尾側方向に固定し,後頭骨を第2段階の強さで左右30秒間持続的に牽引を加えた.
測定には,アニマ社製重心動揺計(TWIN GRAVICODER G-5500)を使用した.両側裸足にて30秒間の閉眼静止立位時の重心動揺を,周波数60Hzで計測した.測定肢位は,頭部を視線の高さで前方を注視させた際の位置とし,両上肢は体側にて自然に下垂させた.ここで得られたデータのうち,総軌跡長・外周面積・左右方向軌跡長・前後方向軌跡長を牽引前後で比較した.統計学的処理には,対応のあるt-検定を用いて,危険率5%未満を有意とした.
【結果】
総軌跡長は,41.1±12.6cmから36.6±9.0cmへと有意に減少していた(p<0.05).また,外周面積は1.1±0.5cm2から0.8±0.4cm2へと有意に減少していた(p<0.05).左右方向軌跡長は,25.0±10.3cmから20.6±7.5cmへと減少し有意差が認められた(p<0.01).しかし,前後方向軌跡長は26.7±6.7cmから25.5±6.5cmで減少していたが,有意差は認められなかった.
【考察】
頭頸移行部からの感覚情報は,前庭の情報と並んで頭部の位置と運動に関する情報を検出する.Wykeは,関節内の神経終末を4つに分類し,このうちタイプ1の受容器は椎間関節の関節包に多く分布し関節運動の方向,大きさ,速さや関節内圧の変化を脊髄や脳に伝える感覚神経であるとしている.今回は視覚情報を遮断したことで,前庭感覚と固有受容感覚からの情報により立位を制御していると考えられる.牽引後の重心動揺が減少したことは,関節包や靭帯に伸張が加わり,関節の機械的受容器が活性化されることで,頭部の位置変化に対して平衡に保とうとする頸反射が働いたためと考えた.特に,左右方向軌跡長の減少が見られたことは,牽引刺激が頭部の側方動揺に対する制御に影響を与えることが示唆された.
【おわりに】
今後は牽引刺激の部位や強さを変え,さらに臨床応用へと展開したい.