抄録
【目的】変形性膝関節症などの患者は、腓腹筋内側頭と外側頭に相当する部分において、強い圧痛の訴えと腫脹を観察することができる。さらに内側頭と外側頭の中間点で、小伏在静脈や後脛骨静脈が膝窩静脈に注いでいる部分では、より強い圧痛を訴えることが多い。この中間点に一定時間の圧擦を加えると、いずれの圧痛も減少するという臨床的な経験を得ている。そこで、この経験を実験的に確認し、腓腹筋にどういう影響を与えるのか検討したので報告する。
【対象】対象は、下腿部・足部骨折の既往のない健常人50名(平均年齢29.6±9.0歳)、男性20名(平均年齢33.5±10.6歳)、女性30名(平均年齢27.1±6.9歳)であった。
【方法】腹臥位にした対象の右膝窩の内側頭と外側頭の中間点(以下、圧擦点)に2分間の圧擦を加え、その前後の膝関節伸展位での足関節背屈角度および圧擦点と内側頭、外側頭の3箇所の圧迫に対する痛みの程度の変化を比較した。膝関節伸展位での足関節背屈角度は、左右両側を他動的に測定した。Smith&Nephew Rolyan社製のゴニオメーターを用い、1度単位で3回測定の平均値を求めた。圧擦前後の3箇所の圧迫に対する痛みの程度は、Visual analogue scaleの10段階評価を用い、対象者に判断してもらった。
【結果】右膝窩に対する2分間の圧擦前/後の足関節背屈角度の平均(度)は、右16.2±5.3/20.9±5.3、左15.0±5.5/14.8±5.8であった。右圧擦前後の右足関節背屈角に有意差が認められた(p<0.001)。圧擦前後で変化した背屈角度の平均(度)は、右4.7±3.5、左-0.2±2.5であった。右圧擦前の背屈角度と右圧擦前後で変化した背屈角度との間に負の相関(r=-0.328)がみられた。右圧擦前/後の右膝窩部3箇所の圧痛程度は、平均して圧擦点は4.3±2.5/3.3±2.2、内側頭3.6±3.0/2.5±2.4、外側頭1.4±1.4/1.1±1.4であった。また、圧擦前後の変化した背屈角度と圧擦点と内側頭の圧痛低下の程度には、正の相関(r=0.334、0.426)がみられた。
【考察】筋・筋膜ではなく、特に下腿が特有にもっている静脈血の滞留という問題に注目し、そのアプローチのメリットを検討してみた。内側頭と外側頭から向かう後脛骨静脈までの静脈叢は小伏在静脈とも交通しており、複雑な構造上、静脈血滞留が生じやすいと考えられる。これに対し圧擦を加えたことで、静脈血流も良くなり、圧痛の低下および筋緊張の低下から足関節の背屈角度の増加が得られた。これらのことは、運動療法をより効率的に行うためのひとつの手段として有効であると考えられた。但し、下腿の血栓性静脈炎を併発していれば、肺塞栓等を起す危険性があり、利用の選択をすべき問題がある。