抄録
【はじめに】呼吸理学療法の適応は急性期から在宅にまで及んでいる.また急性・慢性呼吸不全を有する患者のみならず,呼吸不全はないものの予防的に周術期を通して呼吸理学療法が介入することを経験する.このように適応は拡大されつつあるが,病態の違う患者に対して行われる呼吸理学療法手技は胸郭を圧迫する受動的なものと患者自身が行う呼吸練習が主流である.また,呼吸理学療法はチームアプローチの下でさまざまなケアーを組み合わせて実践されている.しかし,呼吸理学療法が患者に与える影響について検討されている報告はほとんどない.今回われわれはICU入室後の急性期患者に対して日常行われている呼吸理学療法手技の影響を検討し若干の考察を得たので報告する.
【対象と方法】2002年11月~2003年5月の6ヶ月間に当院ICU入室後に挿管下人工呼吸管理を24時間以上受けた患者を対象とし,入室翌日より3日間データ採取を行った.呼吸理学療法は理学療法士・看護師が行い,その内容は,体位変換・胸郭圧迫・用手的気道加圧法・気管内吸引である.今回は体位変換時のみと呼吸理学療法施行時の不整脈出現率,収縮期血圧変動の比較検討を行った.収縮期血圧変動は体位変換・胸郭圧迫前後で20mmHgの変動を認めたものとした.
【結果】期間中に挿管下人工呼吸管理を受けた患者は93例(男性57例,女性36例).平均年齢62.4±16.4歳,ICU平均在室日数9.5±4.9日,平均人工呼吸器装着日数7.4±1.4日,再挿管率は3%であった.93例の依頼科は,救命救急センター28例,胸部外科15例,循環器内科18例,外科11例,呼吸器内科6例,脳神経外科6例,その他9例であった.体位変換時の不整脈出現率・収縮期血圧変動は21%・19%,胸郭圧迫時の不整脈出現率・収縮期血圧変動は18%・43.6%であった.
【考察】今回の検討において胸郭圧迫時が収縮期血圧変動に影響を与えることが明らかとなった.胸郭圧迫は循環動態の不安定な患者に対して行うと血圧変動や心拍数変動が生じることが知られている.我々が通常行ってきた呼吸理学療法は急性期疾患に対しては安全なのかどうか.またどのような病態に対して実施するべきなのかは現在のところ検討されていない.本報告の限界は病態別に検討しておらず診療科目別であり,結果に制限が生じている.したがって今後は病態を考慮したうえで検討する必要がある.呼吸理学療法は,呼吸・換気状態を改善する目的で実施されているが今後は適応を検討する必要があるのではないだろうか.Stillerによれば急性呼吸障害に対する呼吸理学療法の科学的根拠は,今回述べた呼吸理学療法内容では根拠が非常に少ないとされている.これらを踏まえて今後は根拠を追及しつつ臨床を行っていく必要があると考える.
【まとめ】急性期における呼吸理学療法を実施するにあたっては今後多方面からの検討を要する.