抄録
【目的】不適切な座位姿勢で車いす上での長時間過ごす事は褥瘡や脊柱変形、動作に影響を及ぼす。座位姿勢を適切に表現できることは、新規な座位保持装置等の使用時の重要な評価項目となる。1999年3月よりISO(国際標準化機構)TC173(福祉用具)SC1(車いす)の中にWG11(車いすシーティング作業グループ)ができ、座位保持装置およびその時の姿勢表現を扱うパート1、褥瘡予防を目的としたクッションの性能を扱うパート2、そして座位保持装置の機械強度を扱うパート3の3つのISO規格作成が始まった。
【方法】ここではパート1について平成15年11月現在のDIS案を紹介する。
【結果】1)基本条件:座位姿勢を対象とした表現手法とし、前額面、矢状面、横断面に対する身体各節の位置として、車いす座標系、座位保持装置座標系、人体座標系からなる座標系を設定した。人体座標系は左右の股関節中心が、座位保持装置は座面後縁中央、車いすは左右大輪設置面中央が原点となる。座標系は右手の法則が定義された(例えば、原点から右股関節中心に向うx軸正とした)。回旋は360度時計回り法を使用し、矢状面はx軸正の方向から、前額面はy軸正の方向から、横断面はz軸正の方向から見た角度となる。基本的に姿勢を表現する時は車いす座標系が基本となる。また、基本的座位姿勢は股・膝関節90度ルールを採用し、そこからの角度変化を表現する手法を選んだ。2)節の2つの人体標点で節線が決められた。例えば、頭部は左右の眼縁を結ぶ前額面頭部線、眼縁と耳珠を結ぶ矢状面頭部線、左右耳珠を結ぶ横断面頭部線が3つの面それぞれに定義された。頚部は人間工学データを使用した上部頚部点と下部頚部点から前額面頚部線と矢状面頚部線が決められた。体幹部は矢状面上部体幹線が下部頚部点と腸骨稜を結んだ線、矢状面体幹線は下部頚部点と股関節中心(ASISとPSISも人間工学データによる比率により計算される)からなり、前額面は胸骨の上端と下端を結んだ胸骨線、胸骨上端と左右ASISの中点を結んだ前額面体幹線を決めた。他の上肢および下肢もそれぞれ表現手法が決まっている。
また同様な手法で座位保持装置の各部品についても表現できるようになっている。
【考察】問題点として、例えば肩関節外転が左右では今までは同一の30度外転位として表現していたのが、右は150度、左は210度(上腕を下ろした角度が180度)となる。これは体幹部の角度表現での整合性から来ているので、既存の表現手法と異なる。次に、人体計測点から仮想の関節中心を求めているため実際の計測には困難さが生じている。現在、それらの点を容易に算出・計測できるようにソフトを開発中である。
【まとめ】ISOでの座位姿勢表現手法について報告した。いくつか臨床での困難さが残っているが、今後解決できる問題であろう。