抄録
【緒言】我が国の急速な高齢者人口の伸びを背景に、疾病や、機能障害を抱えながら居宅生活を送っている高齢者は増加し、特に在宅障害高齢者の健康管理の重要性が高まっている。高齢者では、加齢や障害を持つことにより、社会的な役割が減少する事は周知の事実であり、それが高齢者の社会との結びつきを弱め、孤独やうつ症状を引き起こす。現在、高齢者の役割の有無とADLや身体機能との関係について、具体的根拠に基づき論じた報告は少ない。今回、高齢者のADLやライフスタイル及び身体能力が、役割の有無にどのように影響を与えているかについて調査したので報告する。
【方法】対象は、2カ所の通所リハビリテーション施設に通所している在宅障害高齢者61名(平均年齢81.8±6.2歳)で、MMS が20点以上および女性を条件として、聞き取り調査、身体機能面の測定を行った。調査項目は、家庭での役割の有無、疲労感、睡眠状況、食事状況について調査し、ADLはBarthel Index(以下BI)、活動能力には老研式活動能力指標を用いた。身体機能面は片脚立ち保持時間、握力、歩行速度、大腿四頭筋筋力を測定した。各々の項目において、役割の有無別の比較を行った。BI、MMS、活動能力、疲労感、睡眠、食事の6項目は、Mann-WhitneyのU検定を用い、年齢、片脚立ち保持時間、握力、歩行速度、大腿四頭筋筋力の5項目は、対応のないt検定を用いて検討した。
【結果】役割の有る者は39名、無い者は22名であった。役割の内訳は、草取り20名、家事全般9名、掃除3名、留守番2名などである。これらを比較すると、年齢は役割の有る者が無い者に比べ有意に若く、BI、MMS、活動能力、片脚立ち保持時間、歩行速度、大腿四頭筋筋力の6項目は、役割の有る者の方が有意に勝っていた。
【考察】今回の調査において、在宅障害高齢者の中で役割の有る者は、前述した6項目が高いことを示した。これは今回対象とした高齢者が、家庭での役割を現在も継続していると考えられ、行う事により、身体機能面を維持できていたとも推察される。また、下肢筋力、片足立ち能力、歩行速度など、下肢機能の維持が役割を持つことに重要である事が示唆された。今後、高齢者が役割を持つ為には、身体能力の維持、とりわけ下肢機能の維持が重要と推察され、これらに対してのアプローチを試みる事は、高齢者のQOLを充実していく為にも必要である。
今回の調査では、身体能力が高いことが高齢者の役割に影響を与えたのか、役割を持つことが身体能力の維持につながったのかは明らかにされていない。今後は、縦断的な調査研究を行い、高齢者の役割を持つことへの意欲、環境要因、経済的背景、性格などを含めた包括的な調査研究が必要である。