抄録
【はじめに】牽引療法は牽引時間・休止時間・治療時間の設定が必要である。今回,牽引時間の違いによる効果を検証するため,牽引効果である椎間関節周囲の関節包・靭帯・筋のストレッチング効果および循環促進効果に着目した。そこで,間歇牽引と持続牽引の比較,間歇牽引内での牽引時間の違いによる比較を行った。
【方法】腰痛等の整形外科疾患のない健常者25名(男性4名,女性21名,年齢30.6±6.6歳,身長161.5±7.1cm,体重52.0±9.4kg)を対象とした。対象は無作為に間歇牽引にて牽引時間10・30・90秒と5秒の休止時間,および15分(以下持続牽引)の4種類の腰椎牽引を体重の1/3kgの負荷で15分間行った。肢位はセミファーラー位とし,電動型間歇牽引装置ORTHOTRAC(OG技研)を使用した。ストレッチング効果の指標として,牽引前後に長坐位での体前屈測定(cm)を行い,循環促進効果の指標として,コアテンプCTM205(テルモ株式会社)を用い,施行前の安定温度と牽引開始から1分毎の表面温度を測定した。プローブは,jacob線より上部の右脊柱起立筋に装着した。
【結果】15分牽引後の温度変化は,10秒:1.83±0.07°C,30秒:1.99±0.08°C,90秒:1.99±0.09°C,持続牽引:1.60±0.07°Cと上昇し,各4種類間で1分毎の温度上昇には全て相関関係があり,間歇牽引と持続牽引間には有意な差が認められた(p<0.01)。間歇牽引内の各実験においては,差は認められなかった。体前屈値は,全ての種類において牽引前後で有意に増加した(p<0.001)。変化率においては,10秒:117.4±26.4%,30秒:111.1±16.8%,90秒:111.6±9.4%,持続牽引:111.9±18.3%であり,間歇牽引と持続牽引間に有意な差は認められなかった。間歇牽引10・30・90秒それぞれの体前屈値の変化率において,10秒と30秒には有意な差が認められた(p<0.05)。
【考察】一般的に牽引療法の効果といわれているストレッチング効果と循環促進効果について検討した。間歇,持続牽引双方においてその効果は確認できた。持続牽引時の温度変化については,Robertらが述べている一過性の循環反応によるものと思われ,温度差から判断しても今回の実験において間歇牽引と持続牽引の効果に差があるとは言い難い。体前屈値において,間歇牽引10秒と30秒間で有意な差がみられたが,対象間でばらつきが大きく,特に10秒の間歇牽引が効果的であるとはいえない。今回,健常人において間歇および持続牽引の効果の特徴は明確にはならなかった。また間歇牽引において,より効果的な牽引時間を検証するまでには至らなかった。今後,臨床応用に向けて,牽引時間と休止時間の設定についてもさらに検討する必要がある。