抄録
【目的】
近年、健康増進や予防医学的な見地から水中運動療法が注目されている。高齢者は内科的疾患に加え、変形性膝関節症や腰痛症などの整形外科的疾患も有している者が多く、陸上における荷重位での高負荷運動が困難となることが少なくない。それと比較し、水中運動は浮力の作用により膝や腰への負担を軽減でき、水の粘性抵抗から陸上より容易にバランスを保つことができるという利点がある。このような観点から、我々は平成15年5月よりプール付き通所介護施設事業所を開設し、要介護認定を受けた高齢者に対し水中運動療法を実施している。そこで本研究の目的は、体力測定値の変化より水中運動療法の効果を検証することと、直接聞き取り調査をすることで利用者自身が感じる効果について検討することとした。
【方法】
水中運動療法は1回30分の水中運動プログラムを1週間に2回程度の頻度で実施した。体力測定値の変化については、高齢女性89名(平均年齢77.4±7.3歳、平均要介護度1、身長148.8±6.2cm、体重56.0±9.2kg)を対象として水中運動初回の検査値と3ヶ月後の検査値を比較した。体力測定の内容は肺活量、長座位体前屈、10m歩行所要時間、The timed up and go test(以下TUG)、3分間自由歩行距離であった。聞き取り調査は利用者131名(男性42名、女性89名)を対象として、効果の内容を直接聴取し、それをカテゴリー化した上で集計した。
【結果】
体力測定値では、肺活量が1650±436.1mlから1629±412.8ml、長座位体前屈が-0.1±11.4 cmから0.4±10.2cm、10m歩行所要時間が17.7±20.8秒から17.2±19.9秒、そしてTUGが20.3±23.6秒から19.8±24.3秒と変化したが、すべて有意差を認めなかった。有意な改善を認めたのは3分間自由歩行距離であり、125.1±53.1mから135.4±56.8mへと有意に増加(p<0.001)していた。
聞き取り調査では、「杖が無くても歩けるようになった」など移動能力の改善がみられた者31名、「膝・腰の痛みが無くなった」など疼痛改善がみられた者17名、便秘が改善した者10名、そして「気持ちが晴れ朗らかになった」など心理的効果がみられた者9名であった。
【考察】
体力測定値の変化では、生活能力を反映すると言われる自由歩行距離に有意な改善がみられた以外に、10m歩行所要時間、TUGでも改善傾向がみられた。聞き取り調査においても約23%の者が移動能力の改善を訴えており、客観的評価と主観的評価が一致していた。今後は水中運動をすることによる身体面の評価に加え、生活範囲と行動がどのように変化していくか継続して調査していく必要があると考えている。