抄録
【はじめに】
臨床現場からの声として,臨床実習指導者から指摘される学生の技術面の未熟さについては,そのほとんどが移乗介助や動作分析といった運動療法関連項目がほとんどであり,物理療法について指摘されることはほとんどない.これは臨床実習における物理療法の位置付けが低いことを示しており,先行研究からもいくつか指摘されている.しかし,各種の治療法や実習の進行時期からみた経験度の違いや実施前に注意事項の確認状況について傾向を調査したものは数少ない。そこで理学療法学専攻の学生に対して,2期間(大学:6週間×2,専門学校:8週間×2)の臨床実習の終了後にアンケート調査を実施し,臨床実習における物理療法の実施状況と指導状況を調査した。
【対象と方法】
対象は4年制大学在学の4年生29名および3年制専門学校在学の3年生40名とした。それぞれカリキュラムは異なるが,患者を担当する臨床実習(見学・検査実習を除く)後にアンケート調査を実施した。アンケートでは物理療法を21種類に分類し,それぞれについて実習中に実施経験がある否か,さらに「使用方法」「生理学的作用・使用根拠」「適応と禁忌」の3項目について確認・指導を受けたか否かを問う形式とした。なお,経験度については対象者全員に対する比率を求め,大学生と専門学校生との比較にはt検定を用いた.
【結果と考察】
結果はホットパック(74.4%)や極超短波(28.1%)を用いた温熱療法および頚部(33.1%)・腰部(34.7%)の牽引そして低周波電気刺激(25.6%)が他の手法と比較すると経験度が高い結果となった。これは一般病院における外来患者の物理療法ニーズの状況からも想定できる。しかし,臨床実習において学生のほとんどが前述した3項目の確認を受けることなく実施していることが明らかとなった。また,分類した物理療法の手法は決して特殊なものではなく,そのほとんどが理学療法施設基準や養成校施設基準に挙げられているものである。しかも電気刺激療法のような物理療法基本ともいえる手法についても予想以上に未経験の学生が多いことが判明した。なお,大学生と専門学校生との比較については,各種物理療法の経験度及び注意事項の確認状況ともに有意差は認めなかった.
理学療法士学生を対象とした臨床実習は研修医制度のように有資格者として参加しているのではないため,医療行為である物理療法の実施が不法であるという認識のもと学生による直接の実施を避けることも考えられる。しかし,運動療法についてもその条件は当てはまることから大きな原因として臨床現場での少ない使用頻度,外来患者に対するルーチンな施行,そして個別担当性による実習方針が影響していると考えられる。