抄録
【目的】
末梢組織傷害の治癒後に傷害と関連のない部位に疼痛が持続的に誘発される。このような病態を慢性痛症と分類しているが、いまだに治療法は確立されていない。慢性痛症の病態解明のために、様々な神経因性疼痛モデルラットが開発されてきたがCRPS-typeIに代表されるような慢性痛症においては、軟部組織の損傷が原因の1つとして重要視されている。にもかかわらず軟部組織損傷モデルに関する報告は少ない。演者らは、これまでの研究でラット腓腹筋へのlipopolysaccharide(LPS:L)による炎症性要因と高張圧食塩水(6%NaCl:N)による侵害性要因の複合投与によって長期に渡る痛み行動の発現を確認している。今回、我々は慢性痛症発現に関わる要因の詳細な検討を行った。
【方法】
実験にはラット(SD系、雄、30匹)を用いた。炎症性要因としてLPS、侵害性要因として6%NaClを用いて、それらを左腓腹筋内側頭に注入することで以下の4群を作製した。またそれらの群と比較するために無投与のcontrol群の合計5群を作製した。単体投与群として1. LPS(2μg/kg)100μl投与(L群)、2. 6%NaCl 100μlを90分間隔で5回投与(N群)、複合投与群として3. LPS投与後6%NaClを3回投与(LN3群)、4. LPS投与後6%NaClを5回投与(LN5群)とした。痛み行動の指標としてvon Frey filament(以下VFF)を用い、ラットの傷害部位とは異なる足底部を5回刺激した際の足引っ込め反応回数を計測した。VFFは投与前(pre)から投与後6週まで経時的に計測した。push-pull gauge(PPG)を用いて傷害部である腓腹筋の圧痛閾値を測定した。また、浮腫・腫脹の指標として同部位の下腿周径も測定した。
【結果】
LN5群において、PPGによる圧痛閾値と下腿周径は投与後1週以内でpreの値に戻ったが、VFFの反応回数はpreの値と比較し長期間の亢進がみられた。また、VFFの反応回数では、control群と比べLN5群のみで亢進を示し、単体投与群のL群・N群と複合投与群のLN3群では、反応の亢進が認められなかった。
【まとめ】
今回、作製した群の中でLN5群においてのみ局所の傷害治癒後でも、傷害部と関連のない足底部に長期的なVFFの反応の亢進がみられ慢性痛症の発現が認められた。炎症性要因もしくは侵害性要因の単体投与群(L群・N群)と複合投与群のLN3群ではVFFの反応の亢進はみられなかった。これにより、単体投与では慢性痛症の発現は認められず、複合要因投与でも、ある一定以上のレベルの侵害刺激入力がないと慢性痛症発現は認められなかった。そのため慢性痛症の発現には、炎症性と侵害性の両方の因子の関わりが重要であるが侵害性刺激の一定以上の入力も関与している可能性が示唆された。