抄録
【目的】
長潜時反射(LLR)とは、末梢神経への電気刺激により、その支配筋より記録できる長潜時の反射性筋電図波形である。LLRは上位中枢からの筋緊張制御に関する研究、あるいは運動制御のメカニズム解明などを目的に臨床応用されている。筆者らはこれまでにヒラメ筋を対象に筋疲労課題と脊髄神経機能の興奮性について検討してきた。今後は先行研究からの展開として、LLRも指標に加え、筋疲労中の脊髄より上位中枢の神経機能についても検討したいと考えている。しかし、下肢の一般的なLLR検査では足関節部刺激による足底の筋からの導出であり、膝窩部刺激によるヒラメ筋導出に関する報告はみられない。そこで、本研究ではLLRを用いた筋疲労研究の前段階として、1被験者を対象に下腿三頭筋の収縮課題前後でのLLR出現様式について検討することを目的とした。
【対象と方法】
35歳の健常男性1名(身長168cm)を本研究の対象とした。被験者には本研究の趣旨を説明し、同意を得た上で実験を行った。
本研究では下腿三頭筋の収縮課題前後での立位保持中に、非利き脚のヒラメ筋からLLRを記録した。電気刺激は膝窩部にて脛骨神経に行った。刺激条件として、持続時間は0.2ms、強度はM波出現閾値、そして頻度は1.0Hzとした。記録回数は30回で、それらを加算平均した。収縮課題は非利き脚のカーフレイズ(CR)を行った。CRは1Hzの頻度で行い、足関節の底屈が十分にできなくなった時点で終了とした。実験は計3回行い、間隔については1回目と2回目の間は2日、2回目と3回目の間は1日と一定にしなかった。
【結果】
本研究で得られたLLRの頂点潜時の平均は65.0(63.2-66.2)msで、変動係数は2.4%であった。CR後では平均63.6(62.0-64.6)msで、変動係数は2.2%であった。また、頂点間振幅の平均は0.028(0.025-0.031)mVで、変動係数は11.0%であった。CR後では平均0.019(0.015-0.024)mVで、変動係数は23.3%であった。
【考察】
下肢のLLRは70-80msで出現するといわれている。しかし、本研究では一般的なLLR検査で行われる足関節部刺激ではなく、膝窩部刺激によるヒラメ筋からのLLR導出のため70msよりも早期に出現した。また、潜時の変動係数は各々2.4と2.2%であり、この結果より再現性良くLLRを導出できていたと考えられた。振幅の変動係数はCR後に大きくなったが、これについては下腿三頭筋の疲労度の違いなどが影響したと考えられた。
本研究では、筋疲労中の立位制御に関わる反射動態などを明確化するための基礎的研究として、ヒラメ筋導出のLLRについて検討した。本結果より、被験者の身長や下肢長も考慮する必要があるが、ヒラメ筋導出では約65ms前後でのLLR波形を分析する必要があると考えられた。