理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 39
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理学療法基礎系
筋線維伝導速度の新しい推定法と計算機シミュレーションによる検証
*西原 賢二見 俊郎久保田 章仁井上 和久田口 孝行丸岡 弘磯崎 弘司原 和彦藤縄 理高柳 清美江原 晧吉溝呂木 忠細田 多穂熊井 初穂山口 明
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抄録

【はじめに】筋線維伝導速度(MFCV)の算出は,処理方法が確立されていないことやその臨床的意義がはっきりしないなどの理由から神経伝導速度のように広く臨床利用されていない。しかも,既存のMFCV算出法は元々規則的な波形を数学的に定義するために考案されたものであり,運動単位によるMFCVのばらつきのような生理学的な現象の推定は困難である。そこで本研究では,臨床応用を目指して我々が開発した正規化ピーク平均法(Normalized peak-averaging technique:NPAT)を用いてMFCVの算出を行った。さらに計算機シミュレーションを用いて,これまで中程度筋収縮の表面筋電図では困難であった一度の収縮で動員される運動単位のMFCV分布を推定した。さらに,算出したMFCV値の妥当性の検証も試みた。これによって,表面筋電図はより詳細な臨床評価に活用できるようになる。
【方法】等尺性肘屈曲運動中の健常者10人から表面電極列で得た筋電図を,電極の位置が神経筋接合部付近の筋電図データ1と神経筋接合部から充分離れた筋電図データ2に分けた。なお,神経筋接合部の推定法は昨年の本学会で紹介した。各被験者から1分ずつ記録した筋電図データを筋活動10秒後から5秒毎に区切って10区間を処理した。MFCVは昨年の本学会で紹介した正規化ピーク平均法のうちのCC-NPATを用いて算出した。運動単位の活動電位が様々な伝導速度を持っているものとして波形を合成する手法で計算機シミュレーションを行いMFCVの分布を推定した。
【結果】筋電図データ1と筋電図データ2共に800から1,300のパルスを検出して平均した。全被験者において筋電図データ1と筋電図データ2は,1分間に及ぶ持続的な肘屈曲運動と共にMFCVの低下がみられた。筋電図データ1上のMFCVは,筋電図データ2のそれよりも大きい値を示した。計算機シミュレーションにおいて,合成の比較平均パルスと実際の比較平均パルスとはかなり高い相関を示した。推定したMFCV分布の標準偏差は,筋電図データ1が45.2±12.9%に対して筋電図データ2が29.0±8.5%と有意に小さかった(図5,p<0.05)。
【考察】筋電図データ1と筋電図データ2は,かなり異なるMFCV値を示しているが,先行研究の同じ上腕二頭筋のMFCV値と比較して,筋電図データ1のMFCV値は異常に大きい。一方,MFCVのばらつきは,筋電図データ1が筋電図データ2より異常に大きいことが明らかになった。筋電図データ1には一部神経筋接合部によるMFCV値の大きい成分が含まれていることが考えられる。これは算出したMFCVの信頼性判定の目安になり得る。本法は筋疾患やスポーツ医学などにおいて筋活動の様式を詳細に調べることで,理学療法の効果判定に用いられる可能性を示唆した。

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© 2005 日本理学療法士協会
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