理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 73
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理学療法基礎系
歩行観察における理学療法士の注視点(第1報)
―注目している部位を明確にする―
*渡会 昌広金子 誠喜仲 貴子柳田 俊次小島 肇清水 陽子林 謙司岡村 大介高田 健司田口 春樹石井 清一
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抄録

【目的】
理学療法士の臨床における技術は,経験的な学習過程を経て獲得されるものが多い.その中でも歩行分析・観察の技術は,経験の少ない理学療法士にとって難しさを感じる技術のひとつである.その理由としては, 歩行分析・観察の学習過程が認知科学的に理解されていないこと,経験のある理学療法士にとっても学習で非言語化されたものを説明することが難しいことなどが考えられる.そこで理学療法士が歩行観察時に注目している部分を明確にするため本研究を行う.
【対象と方法】
(実験1)理学療法士7名に,7名の歩行1往復(あらかじめ録画したもの)を観察してもらい,歩行の特徴について出来るだけ挙げてもらった.観察後に歩行の特徴について被験者自身が用紙に記述し,それを検者が分類し頻度を数えた.
(実験2)対象は臨床経験10年以上の理学療法士2名と理学療法士養成校学生2名とした.課題は,実験1と同じ歩行1往復(録画)を観察し,歩行の特徴について出来るだけ挙げるということとした.その際に被験者の注視点を眼球運動計測装置(EMR-8B:株式会社ナックイメージテクノロジー社製)を用いて眼球運動から測定した.注視点の軌跡,停留点,停留順序について分析を行った.
本研究では,被験者や歩行撮影に協力していただく対象者の権利に配慮するとともに,秘密保持を厳守し,実験,研究発表することとした.
【結果】
(実験1)記述された歩行の特徴で頻度の高かったものを順に挙げると,(1)重心位置・移動(18回),(1)骨盤挙上・下制(18回),(3)上肢の緊張・振り動作減少(16回),(4)体幹傾斜(15回),(5)肩挙上・下制(13回)などで,骨盤,肩,下肢関節に関するものが多かった.
(実験2)歩行観察における注視点の軌跡,停留の傾向として,(1)観察開始初期は注視点が停留せず多くの部位を動くが,次第に停留し始める.特に理学療法士は停留を始める時期が早い(2)停留する点は,骨盤,肩,足部の周囲が多いという傾向があった(3)理学療法士は停留する順序がある程度決まっていて,観察に繰り返しがみられる,などが挙げられた.
【考察と今後の課題】
歩行観察など対象の特徴を認知する過程では,注視点解析が行われる.注視点解析とは,大まかな観察から特徴を示す注視点の探索がまず行われ,次に発見された注視点の重点的な解析が行われることをいう.本研究では実験1,2より骨盤や肩など理学療法士が重視しやすい注視点の存在が明確になった.また実験2より観察初期には注視点を発見する過程が存在し,また経験によってその発見までの時間が短い傾向が示された.臨床経験による観察の学習が注視点を発見するまでの時間を短縮していると示唆される.単に局所的な観察は,全体を捉えて局所間の関連性を理解することができない.前情報としての予備知識も注視点の早期発見,注視点解析の効率を良くさせていると考えられる.
今後は被験者数を増やし,グループ化を行い,歩行観察における経験の差を報告したい.

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© 2005 日本理学療法士協会
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