理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 87
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理学療法基礎系
後方からの外力に対する立位姿勢制御特性の動力学的解析
―リンクモデルを利用した関節粘弾性の推定―
*石田 水里対馬 栄輝佐川 貢一Dragomir N. Nenchev
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抄録

【目的】立位をとった人に外力を与えて,姿勢を保持するときの制御特性を動力学的に解析したい。このとき,人の関節運動を剛体リンクと仮定してモデル化すると,定量的な解析の指標を得られると考える。姿勢制御に要する変数の一つに,関節の粘弾性がある。これを数値表現できれば,人の姿勢制御に関する指標として役立つはずである。
 そこで,立位となった人にいくつか条件を変えて外力を与えたときの下肢関節運動から,モデル運動方程式を基に下肢関節の粘弾性係数を推定し,シミュレーションを行って実際の関節運動と比較することを目的とした。
【方法】立位姿勢制御特性の解析に利用するために,足関節と股関節を持つ2次元倒立二重振り子モデルを作成した。モデルは,各リンクの支点部分で関節角度に比例したトルクを発生させるバネと,角速度に比例したトルクを発生させる粘性減衰性ダンパが,与えられた外力に対して姿勢を倒立状態に保持するように作用する構造とした。モデルの運動に関して,動力学的な解析手法であるLagrange法を用いて運動方程式を導出した。
 次に健常女性1名を対象として,背後から重りを衝突させる外力負荷実験を行った。外力を加える方法は,2種類の重り(3kg,5kg)と作用部分(肩,腰)を組み合わせた4条件とし,各条件ごとに5回ずつ繰り返し重りを衝突させた。これら全ての測定を矢状面方向からデジタルビデオカメラで撮影し,パソコンに取り込み,画像から足関節と股関節の角度を測定した。角度の微分計算によって,角速度と角加速度も求めた。
 運動方程式に最小自乗法を適用して,全条件20試行の各関節での粘弾性係数(バネ定数と粘性減衰係数)を推定した。さらに重りに付けた加速度計から身体に作用する力を測定した。これらを運動方程式に代入し,シミュレーションにより関節運動を確認した。全ての数値計算にはMaTX(プログラム言語)を用いた。
【結果】シミュレーションの値と実測値を比較すると,1試行分で概ね一致した。ただし角速度・角加速度は外力負荷直後でばらつきが生じた。
【考察】結果から,外力負荷直後の値にばらつきが生じており,身体と重りを剛体どうしの衝突として近似し難いと考える。また,測定画像のサンプリング周期が低いためにデータが平滑化されてしまった可能性もある。今後はデータ取得方法やモデルの妥当性をさらに検討して,より詳細な立位姿勢制御特性の解析を行っていくことが課題となる。

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© 2005 日本理学療法士協会
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