理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 420
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理学療法基礎系
ヒト長腓骨筋の神経筋コンパートメントにおける形状特性
*谷口 圭吾片寄 正樹乗安 整而吉尾 雅春
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抄録

【目的】運動機能障害を分析し治療を行う際に筋の機能および解剖を熟知することは、効果的な理学療法の実践に不可欠である。近年、多くの骨格筋が神経筋コンパートメントと呼ばれる要素から構成され、これらの筋区画は機能的な要求に応じて選択的に活動することが確認されつつある。猫の長腓骨筋を観察して筋電図学的に検討した結果、2つの筋区画が長腓骨筋内に存在することが認められている。ヒトの長腓骨筋を用いた研究では、それを支配する浅腓骨神経から起こる筋枝の筋内分布様式をもとに筋を分割した報告があるが、筋内コンパートメントの形態特性の観点から筋の区画化を試みた研究はみられない。一方、筋の形状特性は筋機能に深く関わることが一般的に知られている。本研究では、ヒト長腓骨筋において支配神経の分岐様式から同定される神経筋区画を確認した上で、筋内コンパートメントにおける形状特性を肉眼解剖学的に明らかにすることを目的とした。
【方法】筋標本は本学解剖実習用固定屍体の下腿8肢を研究材料として使用した。形状特性として筋線維の走行方向、羽状角と呼ばれる腱・腱膜と筋束がなす角度および腱組織の位置関係を筋の浅層と深層の両面から分析した。また、長腓骨筋を支配する浅腓骨神経から分岐する筋内の神経枝パターンも観察した。筋形態の描写および計測は、標本の関心領域をデジタルカメラに取り込みそのデジタル画像をコンピューターに転送後、画像処理・解析ソフトを用いて行った。
【結果】長腓骨筋は4つの明確な区画、anterior superficial (AS), posterior superficial (PS), anterior deep (AD) and posterior deep (PD) portionsを有することが認められた。筋内の浅部および深部区画は遠位の停止腱から続く腱膜によって分離された。さらに、これらの両筋区画の各々が筋線維の走行により前部と後部区画に区分された。AS、PSおよびADの筋区画間では羽状角に有意な差は認められないが、PD区画の羽状角は他の3つの筋区画に比して有意に大きい値を示した。また、これらの形状に基づいて分類した筋区画は神経支配様式により定められた筋区画と一致した。一貫して4つの筋枝が存在し、各筋枝が4筋区画の各々に進入することが確認された。
【考察】形状因子をもとに規定された長腓骨筋のコンパートメントは、単一筋内に存在する機能的な分担化に関係する可能性を示唆している。今回試みた形態学的な筋区画化は、長腓骨筋の多様な機能を解明する生理学的研究において解剖学領域からの基礎を提供すると予測される。また、本研究で得られた筋内コンパートメントを指標として画像検査や電気生理学的評価を行うことは、効率の良い最適な治療プログラムの構築に寄与すると考えられる。

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© 2005 日本理学療法士協会
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