理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 427
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理学療法基礎系
グラフ提示が理学療法へ与える影響
*安井 奈津子横山 仁志大森 圭貢
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抄録

【はじめに】理学療法士は,有効なトレーニングの方法論を模索してきた.しかし,そのようなトレーニング方法を臨床で活用した場合,運動負荷が強すぎたり,苦痛を伴いやすく運動拒否や運動継続率の低下などを引き起こし,期待する理学療法効果が得られないことも少なくない.これらのことは有効な理学療法にはトレーニング方法のみでなく,心理的な配慮や意欲を高める方法が不可欠であるということを示唆している.従来から意欲を高める方法としてグラフの提示が知られているが,グラフの提示が理学療法に如何に有用であるかについては十分な検討がなされていない.そこで本研究では,グラフ提示が理学療法に与える影響を検討し,その有用性について明らかにした.
【対象と方法】対象は,人工呼吸器離脱後に重度の筋力低下を呈した5症例である(男性3例女性2例,年齢67.6±11.1歳).これらの対象に理学療法を実施し,下肢筋力(アニマ社製μTasMT-1)を測定した.そして,下肢筋力の回復経過と目標とする移動動作の自立に必要な筋力値を目標値として対象に提示した.提示方法はグラフを用いて提示する方法(グラフ提示群)と口頭にて提示する方法(口頭提示群)に分類して行い,両群で理学療法に与える影響についてみた.
下肢筋力測定は,車椅子乗車が10分程度可能になった時点で開始した.各提示の介入は,その1週後より開始し,週1回の頻度で実施した.理学療法の内容は,全例で呼吸,上肢筋力増強,下肢筋ストレッチ,下肢筋力増強(膝伸展筋力トレーニングを含む3種類),可及的な離床トレーニングを必須トレーニングとした.膝伸展筋力トレーニングの重錘負荷量と回数は,患者自身が決定した.また,必須トレーニング以外に股関節周囲筋・体幹筋を中心とした7種類の筋力増強トレーニングを準備し,選択トレーニングとして理学療法の内容に組み込んだ.その実施もすべて患者自身の自己選択性とした.以上のプログラムと各介入を退院するまで継続した.そして,患者の自己決定した膝伸展筋力トレーニングの重錘負荷量,回数と選択トレーニングの運動種目数及び,理学療法への参加率を両群で調査し,その傾向をみた.
【結果と考察】膝伸展筋力トレーニングの重錘負荷量,回数及び運動種目数は,口頭提示群に比べ,グラフ提示群において介入早期から増加する傾向にあり,かつ退院時まで高い水準で維持されていた.理学療法への参加率では,ばらつきの多かった口頭提示群に比べ,グラフ提示群では全期間を通じて80から100%と極めて良好であった.したがって,グラフによる明確な身体回復や目標値の提示は,患者自身からの積極的な理学療法介入が得られ,運動処方や理学療法の参加率を高い水準で維持することが可能な点で有用であると考えられた.

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© 2005 日本理学療法士協会
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