抄録
【はじめに】急性期・慢性期を問はず閉口・開口障害は治療を進めていく上で問題になる。そこで筆者は咬筋のマッサージによる咀嚼リズムに着目し、良好な結果を得たので症例を通し報告したい。
【方法】咬筋表在筋に対しマッサージを加え、10秒程度3~4回実施する。反応として顔をしかめたり、咬筋の収縮がおき歯を食いしばる。また開口位なら口蓋舌弓より水様の唾液分泌されるのが確認できる。
【症例】症例1 23才 男性 診断名 びまん性軸索損傷 右大腿骨骨幹部骨折 現病歴及び経過 平成13年10月30日乗用車の自損事故にて受傷。11/13髄内釘による骨接合術施行。11/14よりリハ開始。JCS2-2で開眼するも合視無く四肢麻痺。開口障害有り。咬筋マッサージにて顔面をしかめる。11/16ベッド上端坐位開始。左上下肢の随意運動出現。11/19より合視有り。健側上肢でバランスをとる仕草有り。翌日立位訓練開始。JCS2-1。11/29胃瘻造設。マッサージにより開口障害は中等度改善。12/7 ST開始。JCS1-3。12/13筆記にて意思表示有り、カップラーメン1/3摂取。咀嚼・嚥下トラブル無し。12/17家族の希望にて転院。翌年独歩にて来院した。
症例2 59才 男性 診断名 両視床出血 現病歴及び経過平成16年1月14日右視床出血も2/7独歩にて退院。4/13左被殻~視床出血にて発症。4/27血腫除去術施行。5/6右視床出血。JCS2-2-3。5/13リハ開始。弛緩性の四肢麻痺で感情失禁あり。開口位で舌根沈下あり。JCS3-1。閉口障害による口腔内汚染あるため咬筋マッサージにて咀嚼運動・嚥下反射出現させ口腔内を清潔に保つ。5/20車椅子坐位開始し、5/8より立位開始。7/16経管より経口摂取開始。8/12再発。麻痺変化なし。9/22胃瘻造設。JCS3-2-3。開口位は軽減し、発語も可能。
【結果】症例1は意識障害が強く、頭部外傷によるショック状態が持続し、咬筋の筋緊張亢進状態であった。それによる開口障害だが、咬筋マッサージによる痛み刺激と咬筋の伸張刺激により意識障害が早期に改善。咀嚼リズム化と咬筋筋緊張が改善したことにより咀嚼と嚥下能力が獲得できた。症例2は発症時より閉口障害が出現。舌は反り返り、舌根沈下・球麻痺などが認められた。口腔内汚染あったが急性期より咬筋マッサージにて対応し、口腔内の衛生管理やベッドアップの指導を妻・看護師・STと行い、重度な誤嚥性肺炎は起きていない。
【考察】文献より咀嚼筋の筋紡錘は閉口筋に豊富に分布するのに対し、開口筋には実質的に欠如するという著しい分布の不平等が知られている。また、除脳ウサギ及び猫で、橋網様体あるいは錐体路の連続刺激や口腔内の自然刺激によってリズミカルな咀嚼運動が誘発されることが報告されている。筆者はここに着目し、閉口・開口障害者に対し咬筋マッサージを試みたところ咀嚼運動と嚥下反射が誘発された。これにより咀嚼筋の筋再教育と筋力強化が可能となり、嚥下の評価と廃用予防が可能となった。