理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 432
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理学療法基礎系
随意的筋弛緩に関わる皮質運動野の制御動態
*菅原 憲一東 登志夫田辺 茂雄福村 憲司門馬 博鶴見 隆正笠井 達哉
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抄録

【目的】脳血管障害や脊髄損傷患者の麻痺肢に存在する痙性は、運動を阻害するだけでなく、関節拘縮などの2次的な障害を引き起こす原因となる。また、疼痛による筋の過緊張はその疼痛を助長し痛みの悪循環を形成する。このような筋の過緊張状態に対して理学療法場面では、ストレッチや温熱などの物理療法手段、さらにはリラクゼーション手技(随意的弛緩)など多彩な方略を用いてアプローチしている。運動学習に際しては随意的な神経系の活動が重要とされており筋弛緩を行うことに対してもその上位中枢による随意制御は特に必要であると考えた。そこで今回、随意的弛緩に伴う皮質運動野の制御動態を基礎的に理解するために経頭蓋磁気刺激(以下、TMS)を使った運動誘発電位(以下、MEP)を指標に検討を行った。
【対象と方法】被検者は、健康な右利き成人11名(20~38歳)を対象とした.被検者には,実験の目的及び使用する機器の説明を行い同意を得て行った。さらに、所属する大学の倫理委員会の承認を得て行った。被検筋は、橈側手根伸筋(以下、ECR)、橈側手根屈筋(以下、FCR)の2筋として、それぞれ右側の筋を対象とした。運動課題は、手関節伸展の等尺性収縮を最大筋収縮の10%(以下、10%MVC)、20%(20%MVC)、5%(5%MVC)の各レベルで保持することとした。筋放電が安定した時点で音刺激を起点とした反応時間課題によるECRの弛緩を行わせた。TMSは音刺激から10、20、30、40、50、60msの各delayで、7~10施行をランダムに行いMEPを導出した。すなわち、刺激は背景筋放電が変化する前の段階で行い、実際の筋放電減少による影響はない時点とした。TMSはMagstim200を使用し、刺激コイルは8字コイルを用いた.コイルの向きは,AM(前内側方向)とPL(後外側方向)に生体内誘起電流が生じる方向に置いた。また、controlとして3つの収縮レベルで筋弛緩を行わない状態でMEPを記録した。
【結果と考察】1)10%MVC:AMではcontrolと比較して20、30ms delayの刺激でECRとFCRの両筋に促通が認められた(P<0.05)。その他のdelayによる効果は認められなかった。一方、PLでは各delayに特異的な変化は認められなかった。2)5%MVC:AM,PLともに10%MVCと同様であった。3)20%MVC:AMでは50msで両筋に促通が認められた(P<0.05)。PLには変化は認められなかった。以上の結果から、皮質運動野内では筋収縮から弛緩開始を行う場合、一旦動作筋とその拮抗筋のそれぞれを支配する皮質内の興奮性が上昇し、それが弛緩動作開始のトリガーとなっている可能性が示唆された。また、このトリガーは筋収縮程度に依存して時間的に変化していることが確認された。

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© 2005 日本理学療法士協会
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