理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 446
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理学療法基礎系
実験的脳梗塞ラットにおける梗塞巣と運動機能の回復
*松田 史代榊間 春利神園 朝美出雲 公子吉田 義弘
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抄録

【はじめに】
 臨床における脳卒中リハビリテーションの効果に関しては従来論争が絶えない。我々は脳血管障害モデル動物を使用してリハビリテーションの効果に関する研究を行っている。これまで運動による脳梗塞巣の大きさを検討している報告はあるが、運動機能や神経学的変化に関して検討しているものは少ない。今回、中大脳動脈領域の脳梗塞ラットを作成し、梗塞巣の大きさと回復過程における運動機能、神経学的所見との関係を調べた。

【方法】
 8週令のWistar系雄ラット(200-340g) 8匹を使用した。小泉らの方法に準じて、麻酔後頸部正中切開を行い、左頚動脈分岐部を中心に総頸動脈・外頚動脈を結紮した。塞栓(直径0.2-0.3mm、長さ約5mmの糸付き栓子・全長約16mm)を内頚動脈に向けて挿入、結紮・固定し、90分後、塞栓を抜き去り再開通を行い脳梗塞を作成した。術後1日より毎日運動機能と神経学的な評価を行った。運動機能評価は幅2.5cm、長さ180cmの板上を歩かせるFeeneyらのscaleを使用し、神経学的評価は刺激による四肢体幹の反応を観察するMenziesらのscaleを用いた。術後1、9、11、12、14、24日後に脳を摘出し、厚さ2mmの前額断にスライスしてTTC(2,3,5-triphenyltetrazoliumchloride)染色を行い梗塞巣の範囲を計測した。

【結果】
 肉眼的に見ると、大脳皮質・大脳基底核・線状体に梗塞が観察された。梗塞側大脳は1日後では脳浮腫が強く、9日後には梗塞巣の境界が明瞭に認められ、14日後には軟化していた。脳実質に対する梗塞巣の体積比が約30%以上のラットは術後早期に死亡したが、梗塞巣の割合が約30%未満のラットは生存した。運動機能評価では梗塞巣の割合が1-5%のラットは術後7日までには板上歩行が可能になった。しかし、約10%以上のラットは板を渡ることができず、14日後でも対側前後肢ともに伸展し板上に置くことができなかった。神経学的評価では、梗塞巣の割合が1-5%のラットではほとんど神経学的な異常は見られなかったが、約10%以上では神経学的に異常が認められ、24日後も回復は認められなかった。

【考察】
 以上の結果より、ラットの場合小さな脳梗塞は早期に運動機能の回復を認めた。しかし、脳梗塞巣が大きいほど身体へ及ぼす影響は強く、脳全体の30%を越えると死亡し、約10%以上で重度な運動機能や神経学的な障害を認めることが分かった。また、大脳基底核・線状体が障害されると運動機能・神経学的障害が出現し、若干の回復はみられるものの障害は長期的に見られると考えられた。今後、脳梗塞モデルラットを使用して運動療法の効果を運動機能や神経学的所見から検討していきたい。

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© 2005 日本理学療法士協会
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