理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 456
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理学療法基礎系
自己定位において視覚情報や恐怖感はどのような影響があるか?
―片脚起立重心動揺の年代別による比較―
*西本 哲也石浦 佑一藤田 大介菊川 大樹
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抄録

【はじめに】自己定位には多くの知覚システムが関わり、中でも視覚情報は前庭覚や位置覚、運動覚などと相乗して空間的な環境の変化をとらえ、反射的、能動的反応を導きだし継続的に活動を行う。しかし逆に自己定位にとって恐怖感や緊張などの精神的作用が阻害因子として存在する。今回の研究では健常人を対象に片脚起立時の安定性に着目して、視覚情報や恐怖感の有無が重心動揺にどのように影響するかを年代ごとに比較検討した。
【対象と方法】学童群:12名(男児6名、女児6名;平均年齢9歳)・青年群:12名(男性5名、女性7名;平均年齢19歳)・中年群12名(男性7名、女性5名平均年齢36歳)の健常な36名を対象とし、(1)平地での測定:白い壁から3mの地点での片脚起立重心動揺測定、(2)高地での測定:白い壁から3mの地点で、1m(学童群は80cm)高い位置での測定をいずれも開眼と閉眼で行った。測定にはアニマ社製重心動揺計を使用し、各被験者とも自然な目線の高さでの右足での10秒間(取込み周期は100Hz)の片脚起立であった。各々2回の測定のうち総軌跡長が一番少ない時のデータを採用し、また3回まで測定して10秒間の持続片脚起立が不可能であった場合は未達成とした。さらに学習効果の影響を少なくするため各群とも均等に(1)からあるいは(2)から始める被験者にわけて行った。測定で得られた総軌跡長、矩形面積について各群毎に開眼と閉眼の比較、平地と高地の比較を行なった。また各群間におけるそれぞれの比較も行った(Mann-Whitney検定;有意水準5%)。未達成については一応削除して検定を行った。各被験者および学童群の御家族には研究の目的や方法を十分理解してもらい、同意を得た上で安全に配慮して行った。
【結果】平地および高地において全群で開眼より閉眼の方が有意に動揺が大きかった。そして平地での閉眼時に中年群に1名、高地での閉眼時に学童群および中年群でそれぞれ2名ずつ未達成者がいた。学童群では閉眼時に平地よりも高地での動揺が有意に大きく、中年群では開眼時に平地よりも高地での動揺が有意が大きかった。また平地および高地での開眼時に、学童群が青年群および中年群よりも有意に動揺が大きく、高地の閉眼時に学童群が青年群よりも有意に動揺が大きかった。
【考察】統計には加えていないが学童群や中年群では特に高地での閉眼において2名ずつが未達成であることから、青年群が自己定位としての片脚起立時において、最も恐怖心が少なくまた視覚情報以外による調整能力が高い事が示唆された。つまり学童は片脚起立の能力が発達途上であり、中年群は少し衰え始めた段階である印象を受ける。今後は幼児群や壮年群、高齢群を追加し、症例数も増やして、様々なパフォーマンスでの自己定位に必要な機能や加齢による影響等の検討を進めて行く必要があるだろう。

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© 2005 日本理学療法士協会
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