理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 474
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理学療法基礎系
熱刺激によるラット骨格筋の廃用性筋萎縮の進行抑制効果
―異なる期間での検討―
*片岡 英樹豊田 紀香吉川 和代沖田 実中野 治郎吉川 紗智渡部 由香
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キーワード: 熱刺激, 廃用性筋萎縮, Hsp72
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抄録

【目的】
 これまでわれわれは,分子シャペロン機能を持つHeat shock protein 72(以下;Hsp72)のタンパク質合成促進作用に着目し,熱刺激による骨格筋の廃用性筋萎縮の進行抑制効果を1週間のラット後肢懸垂モデルを用いて検討してきた。しかし,Thomasonらによると後肢懸垂による廃用性筋萎縮の進行は,初期にはタンパク質の合成低下が起こり,その後,タンパク質の分解が亢進し,約2週間でピークに達すると報告している。つまり,Hsp72のタンパク質合成促進作用といった特性から考えると,熱刺激による廃用性筋萎縮の進行抑制効果は後肢懸垂の期間により異なる可能性がある。そこで本研究では,1週間と2週間のラット後肢懸垂モデルを用い,熱刺激による廃用性筋萎縮の進行抑制効果を検討した。
【材料と方法】
 7週齢のWistar系雄ラット40匹を,対照群(C群:n=10),熱刺激群(H群:n=10),後肢懸垂群(HS群:n=10),後肢懸垂+熱刺激群(HSH群:n=10)に振り分け,各ラットには自製のジャケットを着用させ背側骨盤部に取り付けたサルカンをケージ上部に張った針金に取り付けた。そして,C群,H群は後肢が全荷重に,HS群,HSH群は無荷重になるよう調整し,飼育した。また,H群,HSH群には麻酔下で毎日1時間,約42°Cの温水に後肢を浸漬し,熱刺激を負荷した。そして,実験開始から1週後(C群:n=5,H群:n=5,HS群:n=5,HSH群:n=5),2週後(C群:n=5,H群:n=5,HS群:n=5,HSH群:n=5)に両側ヒラメ筋を採取した。右側の筋試料は凍結横断切片とし,ATPase染色を施した後,筋線維タイプ別にその直径を計測した。また,左側の筋試料はホモジネートした後,
Western blot法によりHsp72含有量を検討した。
【結果】
 1週後においては,HSH群のタイプI・II線維の筋線維直径は,それぞれ7.4%,18.3%,HS群より有意に高値であった。また,2週後のHSH群のタイプI・II線維の筋線維直径は,それぞれ6.0%,5.4%,HS群より有意に高値であった。次に,HSH群のHsp72含有量をみると1週後ではHS群より増加傾向にあったが,2週後ではHS群と大差はなかった。
【考察】
 後肢懸垂の期間が1週,2週のいずれであってもヒラメ筋の各タイプの筋線維直径はHS群よりHSH群が有意に高値であり,熱刺激による廃用性筋萎縮の進行抑制効果が認められた。しかし,HS群に対するHSH群の萎縮抑制率をみると1週に比べ2週が低値で、2週におけるHsp72含有量はHS群とHSH群で大差なかった。つまり、現時点では詳細については不明だが、廃用性筋萎縮の進行過程が長期におよぶと熱刺激によるHsp72の誘導が少なくなり、筋線維萎縮の進行抑制効果も期待できなくなると推測される。

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© 2005 日本理学療法士協会
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