理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 477
会議情報

理学療法基礎系
拮抗筋電気刺激による筋力増強訓練の神経生理学的検討
*田辺 茂雄村岡 慶裕山口 智史渡邊 知子今井 秀治
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【背景と目的】
 近年,拮抗筋電気刺激(Electrically Stimulated Antagonists,ESA)法による主動作筋の筋力増強効果の検討が行なわれている.この手法は,ESAで生じた力に抗して主動作筋を随意的に収縮させるものである.しかし,拮抗筋を電気刺激する事により,主動作筋に対しては相反抑制が生じる.そのため,主動作筋の随意収縮は相反抑制が生じた状態での非生理学的なものとなる.本研究では,誘発筋電法を用いてESA法の安全性について神経生理学的検討を行なった.
【方法】
 対象はインフォームド・コンセントを得た健常成人14名とした.実験はESA法と通常の随意運動の違いを検討するため,被験者を2群に分けて検討した.
 ESA群では前脛骨筋に対して電気刺激を行いながら,前脛骨筋の収縮に抗して随意的に足関節を底屈させた.電気刺激は,治療的電気刺激装置(江松社製)を用いて被験者が耐えられる最大強度で15分間(刺激10秒,休止20秒)行なった.
 随意運動群では,実際の測定の前に前脛骨筋に対して電気刺激を行い,被験者が耐えられる最大刺激強度での足関節背屈トルクを測定した.その後に,測定された背屈トルクと同じトルクで随意的な底屈運動を15分間(収縮10秒,休止15秒)行なった.トルクの計測には慶應義塾大学月が瀬リハビリテーションセンターで開発した足関節用Therapeutic excise machineを用いた.
 運動前後にH反射測定を行い,最大H反射振幅を最大M波振幅で除した値(Hmax/Mmax)を用いて検討を行なった.被検筋は随意運動を行なった足関節底屈筋であるヒラメ筋とした.それぞれの群で得られた運動前後のHmax/Mmaxは,対応のあるt検定を用いて統計処理を行なった.
【結果と考察】
 ESA群のHmax/Mmaxは,運動前が0.55,運動後が0.57と若干の増加を認め,随意運動群のHmax/Mmaxは運動前が0.65,運動後が0.57と若干の減少傾向を認めた.しかし,両群ともに運動前後で有意な差は認められなかった.
 ESA法では,電気刺激により拮抗筋のIa線維が刺激され,主動作筋は相反抑制の影響を受けながら運動を行なう.もしもこの影響が運動後に持続するならば,通常の随意運動群と比較して運動後のHmax/Mmaxが減少すると考えられる.しかし,両群ともに運動前後でHmax/Mmaxに有意な変化は認められなかった.したがって,ESA法は主動作筋に対して拮抗筋から非生理学的な入力があるものの,運動後にその影響は持続しないことが示唆された.安全性に関しては,運動中の影響についてさらに詳細に検討する必要があるものの,本研究の結果からはESA法による筋力増強訓練の危険性は見当たらないと考えられる.

著者関連情報
© 2005 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top