理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 481
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理学療法基礎系
皮膚への歪み刺激による静的立位重心の変化
*梅木 正篤橋口 伸稲村 一浩
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抄録

【はじめに】姿勢調整は体性感覚系、視覚系、前庭系の情報から行われる。理学療法士が治療として姿勢調整を行う際、徒手による誘導が多く用いられる。我々は軽く触れることで無意識レベルで身体の重心移動を可能にできるという臨床的な現象を経験している。
 今回、健常者に検者の1指で軽く皮膚に触れ、右方向に1cmほど歪ませた際、健常者の静的立位重心の変化を検討したので報告する。
【対象と方法】骨・関節および神経系に障害をもたない健常成人20名 (男性10名、女性10名、平均年齢は32.5±10.9歳)を対象とした。立位重心動揺計測はアニマ社製重心動揺系(システムグラビコーダG-7100)を使用した。サンプリング周波数は50Hzで両側裸足にて閉脚の静的立位重心動揺を開閉眼それぞれ60秒間計測した。口頭指示は「ご自分で真直ぐと思うところでお立ちください」とした。開眼時は視線の高さで前方に設置した点を注視させた。上肢は体側で自然に下垂させた。刺激方法は検者が被検者の前方に坐り、検者の右中指腹で被検者の臍の直下部を右方向に約1cm程歪ませた。圧は歪ませる際に滑らない程度の最小限の圧を意識し刺激を行った。刺激開始は測定開始15秒後から行った。ここで得られた結果のうち、重心動揺の経時的記録(X-Y方向)の観察、単位時間軌跡長・XおよびY方向の最大振幅・動揺中心変位・速度ベクトルを刺激前と刺激直後から15秒(刺激直後)、刺激15秒後から30秒後(刺激15秒以降)までで比較した。
【結果】重心動揺の経時的記録からほぼ全症例に刺激開始後から徐々に右後方への動揺を記録した。単位時間軌跡長は刺激前に比し刺激直後増加し。最大振幅はX方向Y方向ともに刺激直後に最も増加を示した。特にX方向の振幅はY方向に比べ大きいものとなった。速度ベクトルは刺激直後に左右方向に拡がりを見せた。特に右方向へは大きく広がりを見せる結果となった。刺激15秒以降の上記各データは刺激直後に比し減少傾向を示した。動揺中心は刺激直後からX方向では正へ変位し、Y方向では負へ変位した。
【考察】我々の姿勢調整は、記憶をもとに調整されるものと、感覚受容器の感度により常に調整される2つの調整系がある。視覚は前者の典型例であり後者は前庭系である。体性感覚は、双方の要素があり刺激の種類、強さにより並列的な処理過程から統合調整される。
 今回我々は身体図式の調整刺激は、記憶系に作用する無意識レベルの感覚刺激と仮説した。そのターゲットとして順応性が遅く受容野が不鮮明で広いSAIIタイプの受容器と考え、体幹へ軽いタッチの比較的長い刺激を適刺激として重心の変化を調査した。結果刺激はじめは、やはりFA系の刺激の影響で動揺が見られた。しかし刺激継続に従って無意識レベルで体幹のナビゲーションを行える刺激と成ることが示唆される結果と考える。

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© 2005 日本理学療法士協会
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