理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 483
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理学療法基礎系
動作の記憶における視覚情報の有効性について
*塚田 涼子大橋 ゆかり
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抄録

【背景と目的】視覚は他の感覚モダリティーに対し優位性を持つため,練習時に依存しすぎると体性感覚的な学習を阻害するとされている。しかし臨床で扱われる課題指向型アプローチにおいては現実的で有意味な課題を練習することで動作の学習と転移を図ることの重要性が強調されており,課題の特性によっては視覚情報の貢献度が大きいものもある。本研究では練習時に利用した情報の違いが動作の記憶・再現性に及ぼす影響について検討するために保持課題と転移課題を用いて分析した。
【方法】対象は健常成人12名(男性4名,女性8名,平均年齢27.8歳)。練習する動作は4m歩行路の中間に設置した対象物を歩行中に右下肢で跨ぐことであるが,その際可能な限り自然な歩行のリズムを維持する事,対象物に接触しない事,かつ最小限の軌跡で跨ぎ動作を行う事を対象者に教示した。歩行路を一回通過する事を1試行とし5試行を1ブロックとして計4ブロックで構成される練習相を2つ設定した(時系列順に練習相1,練習相2)。練習相1は全対象者が閉眼で練習を行い,練習相2では条件の違いで対象者群を3群に分類した。A群(5名)は平常の開眼条件,B群(5名)は対象物は見えるが身体は見えない条件,C群(2名)はコントロール群として練習とは無関係の手作業課題を挿入した。また跨ぎ動作をビデオカメラで撮影した動画をブロック間休憩毎にフィードバックとして提示した。各練習相の終了後にポストテストとして保持課題(閉眼で動作再現),及び転移課題(練習時とは異なる対象物を見て動作再現)を実施した。分析は同一相における練習時とポストテスト時の足部の軌跡を比較し,その一致性をあらわす指標(RMSE)を用いてポストテスト時の動作の再現性を判定した。
【結果】相(1・2)×練習条件(A・B・C)×課題(保持・転移)の3要因分散分析を行った結果,練習条件及び課題の主効果が有意であった。つまりB群が他の2群より再現性が低く,保持課題より転移課題の方が再現性が低い傾向があった。
【考察】自由度の高い動作を閉眼で体性感覚情報優位に記憶しても,視覚情報が付加されるとパフォーマンスの再現性が低下する。また,転移課題のような環境の変化に惑わされずパフォーマンスを再現するためには,自己の身体と環境(対象物)の両方に関する視覚情報を利用した練習が有効であることが示唆された。一方,B群のように練習時に自分自身の下肢の運動に関する視覚情報を得られないと体性感覚情報とのマッチングができず,どちらの感覚モダリティーを用いても動作の記憶・再現が困難である可能性が示唆された。

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© 2005 日本理学療法士協会
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