理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 491
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理学療法基礎系
股関節内・外転筋の筋疲労が重心動揺に及ぼす影響
*小林 巧矢部 江里子由利 真上田 将之堀 享一山中 正紀
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抄録

【はじめに】姿勢制御は視覚系、前庭迷路系、体性感覚機構などからの入力に依存している。体性感覚機構は関節や皮膚、そして筋紡錘やゴルジ腱器官を含んだ筋腱受容器から入力を受ける。筋疲労は筋紡錘発射閾値の増加や求心性フィードバックの混乱によって関節の固有受容器や運動感覚の統合を傷害することが言われており、それゆえ疲労による体性感覚入力の変化は姿勢制御の損失を招く結果となる。これまで筋疲労と姿勢制御の関連性について、Phillip(2004)らは股・膝関節屈伸筋の筋疲労により、疲労前と比較し片脚立位における圧中心振幅速度が有意に増加したことを報告した。他にも筋疲労と姿勢制御の関連性についての報告はこれまでも多数存在するが、股関節内・外転運動における筋疲労が重心動揺に及ぼす影響についての報告はあまり見られない。本研究の目的は、股関節内・外転筋の筋疲労が片脚立位中の重心動揺に及ぼす影響について、また、疲労後の姿勢動揺の経時的変化について検討することである。
【対象と方法】対象は下肢に整形外科的あるいは神経学的な異常が見られない健常男性8名(平均年齢24±4.0歳)とした。なお、各対象者には研究内容と方法に関する説明を十分に行い、本研究参加の同意を得た。方法は、まずジャパンチャタヌガ社製KIN-COM500H筋力測定器を使用し、立位にて角速度60°/sでの右下肢の股関節内・外転筋のピークトルクを算出した。その後同機を使用し、各筋群がピークトルクの50%以下に低下するまで角速度60°/sの等速性運動を繰り返した。重心動揺の評価は、重心動揺解析システム(アニマ社製GRAVICORDER G-5500)を用いて、開眼で前方を注視させ、裸足にて片脚立位を20秒間保持させた。等速性運動前・直後・5分後・10分後に各3回ずつ重心動揺を測定し、その平均値を重心動揺データとした。検討項目は重心動揺各パラメーターにおける等速性運動前後の比較および運動後の重心動揺データの経時的変化とした。統計処理は多重比較検定を使用し、有意水準は5%未満とした。
【結果】運動前と比較して矩形面積と左右方向最大振幅において有意な増加が見られたが、その他パラメーターに差は見られなかった。左右方向最大振幅は運動直後と比較し10分後有意な減少を示したが、その他パラメーターに変化は見られなかった。
【考察】本研究結果より、股関節内・外転筋の疲労後における重心の側方動揺の増加、また、それに伴った矩形面積の増加が見られた。姿勢制御機構についてPhillipらは下肢近位筋の姿勢制御における重要性を示している。今後は股関節屈伸筋や内外旋筋の筋疲労が重心動揺に及ぼす影響について検討することで、姿勢制御における股関節周囲筋の役割をより明確にすることが可能になると考えられる。

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© 2005 日本理学療法士協会
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