理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 514
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理学療法基礎系
荷物運搬方法の相違における筋活動
*吉本 龍司井上 明生吉本 美智子森田 正治宮崎 至恵甲斐 悟中原 雅美森下 志子渡利 一生松崎 秀隆村上 茂雄高橋 精一郎
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抄録

【目的】
本研究目的は,荷物を持った歩行の中でも日常生活で使用頻度が高い手提げとリュックにおける筋活動を確認し,荷物運搬方法の違いが人体へ与える影響について検討することである.
【対象と方法】
健常男性8名で,年齢25.5±6.0歳,身長166.4±3.2cm,体重60.0±8.6kg.荷物運搬方法は,右手で手提げを持った歩行(以下,右手把持歩行),左手で手提げを持った歩行(以下,左手把持歩行)およびリュックを背負った歩行(以下,リュック歩行)とし,基準として無負荷歩行をトレッドミル上にて実施した.荷物の重量は体重の10%の重さに設定した.筋電図測定は,歩行速度が5km/hに達した時点で10秒間計測した.導出筋は左側の傍脊柱起立筋,腹直筋,大殿筋,中殿筋,大腿直筋,大腿二頭筋,下腿三頭筋,前脛骨筋の8筋とした.筋活動電位測定には表面筋電図を用い,1歩毎の最大筋活動電位(peak electromyography)を算出し,各歩行パターンにおいて,5歩行周期の平均最大筋活動電位peak-to-peak electromyography(以下,PTPEMG)を求めた.正規化は,無負荷歩行の5歩行周期のPTPEMGを100%とした時の割合(%PTPEMG)で右手把持歩行,左手把持歩行およびリュック歩行の関係を比較した.各測定項目における筋活動の関係には,2つの対応するt検定を行い,有意水準は5%未満とした.
【結果】
右手把持歩行は,左手把持歩行に比べて傍脊柱起立筋,中殿筋の筋活動が増大した.また,リュック歩行に比べて大殿筋,中殿筋の筋活動が増大した.左手把持歩行は右手把持歩行に比べて下腿三頭筋の筋活動が増大した.また,リュック歩行に比べて大殿筋,大腿直筋,下腿三頭筋の筋活動が増大した.リュック歩行は,左手把持歩行に比べて傍脊柱起立筋の筋活動が増大した.左手把持歩行での中殿筋を除く全ての筋において,無負荷歩行での筋活動を上回った.
【考察】
歩行中,荷物を持つことで体幹は中央より荷物の側に変位する傾向にある.しかし,重心を支持基底面内に保持しようと,代償姿勢調整として荷物と反対側へ体幹,骨盤帯を変位させる.今回の結果はこの歩容の変化が作用し,筋活動に影響を及ぼしたものと考える.一般的に脊柱起立筋は歩行周期全般にわたって活動し,慣性と重力によって体幹が前方に屈曲するのを防ぎ,中殿筋は,下肢を振り出した側と反対側に骨盤が下がらないように固定する働きがある.このことから,リュックでは矢状面の運動による傍脊柱起立筋,そして手提げでは前額面での運動による把持側と反対側の傍脊柱起立筋と中殿筋の筋活動が増大したものと考えられる.臨床場面では,荷物運搬方法をも想定した歩行練習や指導も必要であると考える.最後に,今後は「利き手」「非利き手」による違いを考え,両側の筋活動についても検討し進めて行く.

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© 2005 日本理学療法士協会
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