抄録
【目的】片麻痺患者など骨盤偏位による全身アライメントの歪みを私たちは臨床上よく目にする.これは片麻痺患者の姿勢調節にとって不利となる.今回,我々は,健常者を対象に骨盤を側方移動(左右それぞれ,3cm,5cm)させることで平衡機能や筋力に問題のない条件下で,バランス能力の指標であるFunctional Reach Testや重心移動距離にどういった影響があるか検討したので報告する.
【対象】対象は平衡機能に問題がなく下肢に整形疾患を有していない健常男女で,調査に同意した10名(男性8名,女性2名,平均年齢28.1±8.8歳)とした.
【方法】重心動揺計はフットプリント(Zebris社製)を使用し,骨盤側方移動(左右それぞれ3cm,5cm)には自作の骨盤移動装置を用いた.骨盤移動装置は股関節骨頭部を床面に対して水平移動できるものとした.まず,フットプリント上に被検者を自然立位で立たせ,左上肢を90°屈曲させた状態からできる限り前方へリーチさせFunctional Reach Testを行った. Functional Reach Testは各10秒間行い,そのときの前方重心移動距離も計測した.次に、骨盤を骨盤移動装置にて側方(3cm,5cm)へ左右それぞれに移動させ,同じ手順にてFunctional Reach Testと前方重心移動距離を繰り返し計測した.計測はそれぞれ約5分の間をあけて行った.そして,柔軟性テストとして,指床間距離を自然立位時と上記各骨盤移動姿勢にてそれぞれ計測した.データー処理は,自然立位時と骨盤側方位移動時のFR値,前方重心移動距離,指床間距離の,それぞれの検査項目内の結果についてt検定を用いて統計学的判定を行った.また, 自然立位時と骨盤側方位移動時におけるFR値と前方重心移動距離,さらにFR値と指床間距離の相関関係についてはピアソンの相関係数を用いて判定した.
【結果】1. 骨盤右方向偏位(3cm,5cm)でFunctional Reachが自然立位時(39.5±6.2cm)に比べ,有意に短縮した(3cm側方偏位:37.0±7.1cm,p<0.05, 5cm側方偏位:36.2±6.7cm,p<0.01).2. 骨盤移動時の前方重心移動距離は自然立位時(10.79±3.61cm)に比べ有意差を認めなかった.また,指床間距離も自然立位時(0.84±12.36cm)に比べ有意差を認めなかった.3. FR値と他検査との相関は, (被検者からみて)骨盤右側方移動3cm,5cm,および左側へ3cm骨盤移動したときのFR値と重心移動距離に相関が認められた(それぞれp<0.01,p<0.01,p<0.005).
【考察】今回の結果から,上肢挙上側と反対側への骨盤側方移動姿勢におけるリーチ距離の短縮は,身体の柔軟性に左右されておらず,前方重心移動距離に反映されていた.この姿勢において重心移動距離の短縮がみられずリーチ距離との相関がみられたことから,股関節ストラテジーの応答の得にくいアライメントではないかと推察する.また,上肢挙上側と同側に5cmの骨盤移動では,リーチ距離の低下がみられなかったが,これは逆に股関節ストラテジーの応答しやすい立位姿勢であるためと考えられる.