抄録
【目的】姿勢調節は視覚、前庭覚、体性感覚からの情報が統合されて行われ、その中でも体性感覚の1つである立位における足底部位からの感覚入力は立位姿勢調節の際に重要な役割を果たしている。本研究は、足底部への足底板による刺激の有無が各歩行前後の静止立位の重心動揺に及ぼす影響と足底板の有無とを比較検討する事を目的とした。
【方法】対象は整形外科的疾患の既往や足底感覚に問題の無い、実験の承諾を得た健常者14名(男性7名、女性7名)。平均年齢は21.7(20-23)歳、身長と体重の平均値±標準偏差は167.1±7.8cm、57.4±8.8kg。条件はA:両側裸足、B:両側とも靴を履く、C:両側とも靴内に足底板挿入、の3条件とした。足底板は足底部全体に直径4mmで高さ2mmの突起が2mm間隔で並んだ物を使用した。各条件において歩行前の静止立位姿勢での重心動揺を測定後、各条件でそれぞれ5分間歩行しその後再び静止立位姿勢における重心動揺を測定した。各条件間には座位にて5分間の休息をとった。重心動揺測定にはアニマ社製重心動揺計GS-11を使用し測定時間は60秒とした。測定肢位は開眼立位で2m眼前を注視し、上肢は体側に置いた。統計処理にはSPSS(ver.12)を用い、分散分析と多重比較検定(LSD法)を実施し有意水準は5%未満とした。
【結果】男女間における有意差は無かったため全被験者間で処理を行った。得られた結果の平均値±標準偏差はABCの順で、歩行前では総軌跡長[cm]は65.6±10.7、62.6±10.4、60.8±11.6、単位面積軌跡長[1/cm]は25.0±10.8、26.0±11.7、22.9±9.6であった。総軌跡長はA-C間、単位面積軌跡長はB-C間に有意差があった。歩行後では単位面積軌跡長[1/cm]は24.0±8.5、27.3±11.0、23.1±10.0、外周面積[cm2]は3.0±1.2、2.6±0.9、3.1±1.2、前後方向の動揺平均中心変位[cm]は-2.9±1.3、-1.8±1.5、-2.4±1.6、前後方向の動揺中心変位[cm]は-2.8±1.6、-1.4±1.5、-2.4±1.6であった。これらは全てB-C間に有意差があった。
【考察】結果より条件Cの総軌跡長、単位面積軌跡長で重心動揺の有意な減少が見られ、また歩行後においては歩行前と比較して有意化減少を示す項目がさらに増加した事から、足底刺激の増加と重心動揺の減少とは関係があると考える。さらに足底板使用での歩行後に前後方向の動揺が減少した事について、後方から前方への体重移動の感覚が足底板を使用した歩行によって、より入力されやすくなった事が推察される。これらから立位姿勢調節を安定させる1つの方法として、体性感覚の入力を増大させる為に足底板を挿入しての歩行は有効であると考える。