抄録
【目的】全身持久力増強運動を処方する場合、運動強度の設定が重要である。この運動強度の個人個人に応じた設定を行う基準の一つに換気性閾値(VT)が古くから用いられているが、測定・評価には高価な呼気ガス分析器が必要なため、現在においても汎用性が高いとはいえない。そのため、換気量に直接関連する呼吸数の変化によってVTを推定する試みも報告されているが、換気量と呼吸数の関係は一様でないため十分な結論には至っていない。一方、ペダリング運動時、運動リズムと呼吸リズムが同調(カップリング)することはよく観察されており、玉木らはVT強度でこのカップリングが高い確率で起こると報告している。そこで今回、このカップリングを意識したペダリング運動を行わせ、運動リズムに呼吸リズムが同調できなくなった強度がVTと一致するかを検討することを目的とした。
【方法】健康な心疾患のない理学療法士養成課程の男女学生7名(男性1名、女性6名、年齢21~30歳、身長1.62±0.080m体重53.2±8.14kg)に漸増負荷運動を行わせ、心拍数・呼吸数・分時換気量・酸素摂取量・二酸化炭素排出量を15秒毎に測定した。漸増負荷は男性15W/分、女性10W/分のランプ負荷とし、ペダリング回転数は60回転/分で行わせた。カップリングを意識するため、ペダリング2回転で1呼吸(30回/分)の調節呼吸を行わせた。ただし、低強度では過換気になる危険性もあるため、調節呼吸は中等度の強度からとした。VTはVスロープ法で決定し、運動強度(W)を求めた。また、運動リズムと呼吸リズムが同調できなくなった強度は、呼吸数のデータおよび被験者の自己申告より30回/分が維持できなくなった運動強度(以下、呼吸数閾値:RRT1、RRT2)として求めた。そして、VTとRRTのピアソンの相関係数を求め、無相関検定(危険率=0.01)を行い、VTとRRTが一致するか検討した。
【結果】VTの平均値は125.4±23.29W、RRT1は119.8±24.76W、RRT2は146.8±23.04Wであった。VTとRRT1の相関係数rは0.991で、検定の結果p=0.000007で無相関であることは棄却された。また、VTとRRT2との相関係数rは0.548で、検定の結果p=0.101で無相関であることは棄却できなかった。
【考察およびまとめ】呼吸データの結果より、運動リズムに呼吸リズムが同調できなくなった強度RRT1がVTと一致することが確認できた。全ての被験者でVT強度よりRRT1の強度は低く出現したことと合わせ、簡便で安全にVT強度を推定する可能性が示唆される。ただし今回のVTは、調節呼吸で行った運動中に得られた値であり、調節していない場合との比較も必要といえる。また、呼吸データでなく、自己申告でリズムが維持できなくなった強度を正確に示せる工夫が必要である。