抄録
【目的】パーキンソン病患者(以下、PD患者)は物に接近する際にいわゆるすくみ足を起こす場合がある。しかし、その原因は明らかにされておらず、理学療法場面においても難渋する。今回、健常者を対象に、ドアに向かって歩く動作から、すくみ足が生じる原因を検討した。
【対象・方法】対象は年齢21.9±0.99歳の健常女性20名とした。対象者はドアに向かって10m歩き、丸ノブ付の押し開きドアを左手で開く動作を行った。対象者のケイデンスはメトロノームを使用し、約1、2、3(歩/s)の3種類のテンポで規定した。ドア、歩行路からそれぞれ2m離れた床上にビデオカメラを設置し、ドアまでの4mを対象者の左方向から撮影した。画像はScion Imageにて、コマ送り回数、踵接地ごとのドアからの距離、ノブを握ろうと手を始動させたときの距離(以下、始動時距離)を測定し、歩幅、歩行速度、ケイデンスを算出した。その後、始動時距離と各要素との相関係数を算出した。
【結果】ケイデンス (1.22歩/s、2.02歩/s、3.03歩/s)の順に各平均値を次に示す。歩行速度(cm/s)は(72.04、139.44、196.77)、始動時距離(cm)は(93.14、126.79、158.56)であった。歩行速度と始動時距離には相関(r=0.71)があり、ケイデンスと始動時距離にも相関(r=0.62)があった。歩幅の身長比は(0.37、0.43、0.41)であり、歩幅の身長比と始動時距離とは相関を示さなかった。
【考察】歩行速度はケイデンスと歩幅によって決定される。今回の結果として、ケイデンスと始動時距離とは相関があり、歩幅と始動時距離とは相関がないことから、歩行速度の認識はケイデンスにより影響を受けていることが示唆された。次に、物に接近する際に生じるすくみ足の原因を以下のように考えた。丸山らはPD患者において視覚情報の処理には異常がないと報告している。したがって、PD患者は目標物までの距離を健常者と同様に認識しているといえる。また、Sekiyaらは、健常女性のケイデンスは1.91(歩/s)、歩幅は71.1(cm)、Miyaiらは、PD患者のケイデンスは1.98(歩/s)、歩幅は43.9(cm)と報告している。健常者とPD患者のケイデンスはほぼ同じであるから、PD患者は健常時と同じ歩行速度を感じ、移動距離を認識していると考えられる。しかし、病態の進行による歩幅の減少により、進む距離は健常時より短く、ドアに達する前に動作が制御され、すくみ足が生じると考えた。このことより、すくみ足へのアプローチの一つとして、歩幅の拡大を促すことも考慮すべき要素であることが示唆された。