抄録
【目的】運動イメージが身体的運動に影響を与えることは明らかであり、脳卒中患者に対する運動イメージを用いた治療が考案されている。運動イメージ過程を調べる手段として心的時間測定(mental chronometry)がある。健常者の運動イメージを評価したDecetyらは、実際の運動遂行とその運動イメージには時間一致性が認められることを明らかにした。時間一致性に関しては、20歳代の若年層を対象としている場合が多く、中・高齢者での報告はほとんどない。そこで本研究の目的は、若年層から中・高齢者の運動遂行と運動イメージの時間一致性を年代別に評価し、心的時間測定の再現性も評価した。
【方法】健常成人100名(20歳代:30名・平均年齢25±2歳、30-40歳代:20名・平均年齢41±6歳、50-60歳代:50名・平均年齢59±5歳)を対象とした。課題内容は非利き手で「理学療法」の4文字を実際、あるいはイメージで書字することとした。測定はデジタル式ストップウォッチを用い、実際の運動遂行時間はペンが紙面に接触したときから離れるまでを検者が測定した。運動イメージの時間は、開始から終了までを被検者自身が行った。運動遂行と運動イメージを各5回測定し、その平均値を用いて運動イメージ時間/運動遂行時間の比率を計算した。運動遂行と運動イメージの時間一致性を20歳代、30-40歳代、50-60歳代の年代別に比較した。また各測定値間の再テスト信頼性には級内相関係数を用いて評価した。
【結果】運動イメージ時間/運動遂行時間の比率は20歳代では1.02±0.35であった。中・高齢者では運動遂行時間よりも運動イメージ時間の方が早くなり、30-40歳代では0.82±0.23、50-60歳代で0.64±0.29であった。心的時間測定の級内相関係数は20歳代ではICC=0.97、30-40歳代ではICC=0.95、50-60歳代ではICC=0.97であった。
【考察】心的時間測定は測定値間での再現性があったことから運動イメージの評価として年代を問わず有効であると考えられた。また、運動遂行と運動イメージの時間の不一致が加齢とともに顕著となり、特に50-60歳代では正確な運動イメージが困難であることが分かった。また、運動遂行時間より運動イメージ時間が短縮しており、高齢者では自己の運動能力を過大評価することが示唆された。これは、高齢者の転倒時や動作失敗時によく報告される「できると思った」という誤判断に関連している可能性がある。