理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 249
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神経系理学療法
多角的理学療法アプローチを施行した著明な左半側空間無視症例の検討
―プリズムアダプテーションを施行した一例―
*新井 由美子野崎 宏伸五十嵐 久巳市来 詩織一場 道緒松田 雅弘高橋 博之網本 和
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抄録
【はじめに】半側空間無視(以下USN)は、ADL自立度に影響を及ぼす要因であることが知られ理学療法施行困難な例も少なくない。今回右被殻出血により左片麻痺を呈し、重度のUSNと軽度のpusher現象を伴い起居移動動作困難であった症例に対し、発症早期より約7ヶ月間通常の理学療法に加えプリズムアダプテーションを施行し、USNは残存するものの動作の獲得に至った。本研究では多角的なアプローチを記述しその長期治療経過について検討した。
【症例および開始時所見】67歳女性。診断は右被殻出血による左片麻痺(H.16.2.9発症)。他院を経てH.16.2.27より当院PT開始。神経学的には意識清明、感覚脱失、左同名半盲、左片麻痺(Brunnstrom Stage上肢、下肢、手指ともII)を認めた。神経心理学的にはHDS-R17点、構成失行、pusher現象、著明な左USNを認めた。基本動作全介助で特に坐位バランスは不良であり、ADLはBarthel Indexで10点であった。
【理学療法アプローチ】1.基本動作に対する姿勢保持、立ち直り反応の促通を中心に理学療法を行った。2.プリズムアダプテーション:体幹正中位認知テストとして、車椅子座位の被験者正面にテーブルを顔面から50cmに設置し、閉眼にて主観的正中位置を示指で差し誤差を、10回計測した。このテストをプリズム課題の前後に施行した。プリズム課題は、右7度偏光のプリズム眼鏡を装着し、被験者の肩および上肢が見えない状態で、テーブル上の棒を見ながらテーブル下方にある目標に対するリーチ動作を50回行った。
【理学療法経過】H.16.2.27より理学療法開始。頚部の右回旋に加え、pusher現象のため正中位での坐位保持困難。3.16より長下肢装具を装着した立位、歩行訓練を追加。移乗はほぼ全介助。3ヶ月pusher現象を軽減させる目的で肋木を利用しての訓練を開始。顔面はほぼ正中に向き、坐位保持可能。4ヶ月:移乗ほぼ自立。車椅子自走可能となり障害物の回避可能。歩行は長下肢装具使用、中等度介助。7ヶ月:歩行は長下肢装具使用、軽介助。Brunnstrom Stage上肢、手指II、下肢III~IV。Barthel Indexは55点となった。
【神経心理学的所見の経過】線分抹消試験については1ヶ月後9本消去、3ヶ月後22本消去、最終評価時36本消去可能となった。体幹正中位認知テストはプリズム課題前17.5cm右方偏倚がアダプテーション後で11.5cmへ変化し、注意が左方向へ改善した。
【考察】本症例は比較的早期の経過であるため自然回復による改善が含まれていると考えられるが、主要な問題点であるUSNに対してはプリズムアダプテーションが改善方向に作用したと考えられる。一方の問題点である起居移動動作困難に対しても同様に早期歩行を中心としたプログラムが奏効したものと考えられる。重度なUSNを伴う症例に対しては、通常の理学療法に加え神経心理学的な方法を適用することが重要であることが示唆された。
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© 2005 日本理学療法士協会
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