抄録
【はじめに】今回前頭葉症状を中心とした多彩な高次脳機能障害を有する症例で、特に注意障害に注目し、早期より環境に配慮して言語的行動調整を試みながら歩行訓練を施行した。その結果、歩行能力の改善が認められたので紹介する。
【症例】50歳代の男性 くも膜下出血、脳内出血(右前頭葉・皮質下血腫)にて発症。発症1病日に前大脳動脈瘤のクリッピング術を、発症4病日にステレオ血腫除去術を施行する。発症39病日に左片麻痺と高次脳機能障害に対し、リハビリ目的にて当院へ入院。
【入院時より2週時点の所見】[神経学的所見]BRS:左上肢4、左手指5、左下肢2~3。反射:深部腱反射は左右上下肢共に亢進。バビンスキー反射陽性。ホフマン反射陰性。感覚:左上下肢の表在、深部覚軽度鈍麻。[神経心理学的所見]意識清明でコミュニケーションの問題はないが、注意の持続性・選択性・転導性の欠如を認め、病識は乏しい。多弁であり、話題提示・転換が急である。意味記憶、短期記憶は保たれているが、エピソード記憶はまだらであり、易怒性。他者の口頭指示による動作には従う事が困難。MMS:14/30点。TMT A:3分46秒 B:6分(途中中断)数唱:順唱4桁 逆唱4桁 [CT所見]:右前頭葉・頭頂葉・後頭葉にLDAを認める。[姿勢]立位:右上肢は柵を把持して引き込み、右下肢で保持する。左の踵は全く接地せず、骨盤は後傾している。また、静止は困難で非麻痺側で動き出そうとする。左側体幹の崩れ、左膝折れがある。
【方法及び結果】環境は次の4条件を設定した。1.右耳聴覚遮断(耳栓)、2.右視覚遮断(壁)、3.右耳聴覚遮断+右視覚遮断(耳栓+壁)、4.環境設定なし。それぞれの条件の元、長下肢装具を装着し2人介助で歩行訓練を行うが、麻痺側を残したまま非麻痺側で勝手に前進してしまい、訓練実施困難。そこで自己による言語的行動調整を上記の4条件に加えて行った。始めに立位をとり、「手すり」→「左足」→「右足」と本人が声を出した。この上で2人介助による歩行訓練を行った。自己による言語指示が学習されるまでは介助者も共に声を出した。言語指示を行いながら最も効果的であったのは、右視覚遮断であった。繰り返す度に麻痺側に対してのリズムの遅れ、歩幅の調整など、気付きが多くなり介助者との歩行順序が合いやすくなった。2人介助であるが振りだし・体幹保持介助ともに介助量が低下し、2週間後には一人介助で短下肢装具、最終的には自立へと至った。
【考察】本例の言語的行動調整は、自己の言語指示でフィードバックし、左側への注意を向ける事ができた。また、視覚を調節して自己による言語的行動調整が有効であった。これらにより動作イメージに関する情報が得られ、歩行能力の改善が認められたと考えられる。