抄録
【目的】心原性脳塞栓症は広範梗塞や高度の脳浮腫,また出血性梗塞を生じやすく,脳梗塞の他の病型と比べて重篤且つ転帰不良である.峰松らはこのような心原性脳塞栓症の未解決な問題の一つに急性期の脳梗塞再発と出血性合併症の予防対策を挙げている.
そこで,本症患者に対する入院中の治療内容や血圧変動を中心に後方視的・前方視的に調査し,心原性脳塞栓症の早期リハビリテーションにおけるリスク管理について検討した.
【対象】当院神経内科にて入院加療された脳梗塞患者の中から,心原性脳塞栓症と診断され入院中に理学療法を実施した26例(後方視的調査:13例 平均73.5歳,前方視的調査:13例 平均72.2歳)を対象とした.後方視的調査は平成10年3月から平成15年8月までを,前方視的調査は平成16年1月から10月までとした.
【後方視的調査の結果と介入方法】後方視的調査から,1)出血性梗塞や再梗塞は発症後10病日以内にリハビリテーションが開始されていた症例で発症(出血性梗塞4例,再梗塞3例),2)リハビリテーション開始後に収縮期血圧が180mmHgを超えることがあった4例中,抗凝固療法が実施されていた3例で出血性梗塞発症,3)NVAF症例では,診療ガイドラインの再発リスク分類において高リスクに属した5例中2例で再梗塞を発症し,いずれも収縮期血圧が180mmHgを超えていたことが明らかとなった.
この結果から,抗凝固療法実施中の症例や診療ガイドラインで高リスクに属し,心内血栓を有するNVAF症例では,収縮期血圧180mmHgを実施上限に設定し,早期リハビリテーションによる出血性梗塞・再梗塞の発症件数を前方視的に調査した.なお,早期リハビリテーションは15°単位でのガッジアップ増加,端座位,車椅子座位の段階的離床訓練とし,各段階で15分間の耐性が得られれば次の段階へ進むこととした.
【前方視調査の結果と考察】リハビリテーションの開始時期は平均10.3病日から,3.5病日に有意(p<0.01)に短縮されていたにも関わらず,訓練開始後から端座位や車椅子座位までの離床期間に出血性梗塞・再梗塞のいずれも発症しなかった.今回,出血性梗塞や再梗塞のリスクが高いと考えられた症例は,離床訓練中に収縮期血圧が180mmHgを超えた3例で,いずれもNVAF症例で高リスクに属し抗凝固療法も実施されていた.また,僧帽弁閉鎖不全,僧帽弁穿孔を合併した2例で心内血栓を認めたが,収縮期血圧はいずれも180mmHg以下であった.脳卒中リハビリテーションのリスク管理基準は収縮期血圧200mmHgを実施上限とする報告がなされているが,後方視的調査や介入による出血性梗塞・再梗塞の減少から,心原性脳塞栓症に対しては血圧上限の見直しや治療内容に応じた新たなリスク管理基準が必要と考える.