抄録
【目的】
半側空間失認の多くは右脳血管障害に随発し、視空間における左半分を無視するという理学療法施行において多大な阻害因子となりうる障害である。
今回我々は、シングルケーススタディにて半側空間失認を伴う脳卒中片麻痺患者に対する認知運動療法の効果をロンベルグ比を中心に検討し、良好な成績を得たので、若干の考察を加え報告する。
【対象と方法】
<症例紹介>
性別:男性、年齢:66歳、診断名:右中大脳動脈梗塞(起始部)、障害名:左片麻痺、左半側空間失認、構音障害、現病歴:平成15年10月19日疼痛症状から発症し、翌日より他院へ入院となる。経管栄養からの離脱可能となり平成16年2月23日、より積極的なリハビリを目的として当院へ転院となる。
高次脳機能障害:左半側視空間失認(+)、HDS-R:19点、Br-Stage:上肢2、手指2、下肢3、Motor Behavior:端坐位保持、介助立位可能。
<方法>
方法は、通常の動作訓練を中心とする理学療法(以下、方法Aと略す)と、40cm立ち上り台上端坐位にて背面と側面に直角に交わる垂直壁に健側と患側を接触させ、2種類のスポンジ硬度を認識させるという垂直認識を目的とした認知運動療法(以下、方法Bと略す)の施行前後における端坐位での開眼・閉眼時の重心動揺を測定し、ロンベルグ比と施行前後における線分抹消テストの成績を中心に検討を加えた。
なお、重心動揺計はNEC社製SYNAPACK EN2102を用い、シングルケーススタディのデザインはA-B-Aデザインを使用した。
【結果】
重心動揺検査の結果、方法A施行前ロンベルグ比は平均0.96、方法B施行前ロンベルグ比は平均0.71であった。
線分抹消テストは、方法A施行前後は認識面積が右側1/2前後と著明な変化は認められなかったが、方法B施行前後では認識面積が右側1/2前後から右側2/3前後となった。また、方法B施行中は普段難しい左方向への視線移行が随意的に可能となり、立位動作の安定性等においても改善が認められた。
【考察】
半側空間失認は「1.視覚によるパラメーター、すなわち視覚からもたらされる外部空間の正中軸が偏位している状態」さらに「体性感覚による身体の内的な正中軸と、1.により偏位した外部空間の正中軸との間での解離状態」であると仮設することができる。
今回の調査から、広範囲な右中大脳動脈領域の梗塞を示した症例においても、視覚よりも体性感覚を用いた運動療法である認知運動療法を施行することによって、ロンベルグ比や実際の動作の改善を得た。これは、視覚よりも直接的に運動野へ情報を提供する体性感覚を多く用いることによって、従来の運動療法に比較し、より中枢神経系の学習や再組織化が促進され、視覚と体性感覚との解離状態に対して有効に作用した結果であると考えられた。