抄録
【目的】歩行時の距離因子の測定には10m最大歩行速度での歩行が用いられることが多い.我々は脳卒中片麻痺者の10m最大歩行速度での距離因子測定において高い再現性があることを報告した.しかしながら,測定の煩雑さという点では改良の余地があり測定時間の短縮や測定路の縮小化が望まれる.また,快適歩行速度での距離因子における変動係数(以下CV)が最小となるという報告や,最大歩行速度よりも快適歩行速度における距離因子CVが重心動揺との相関が強いという報告もある.本研究の目的は脳卒中片麻痺者における距離5mの快適歩行速度での距離因子および距離因子CV測定の再現性を検討することである.
【対象と方法】本研究の趣旨を説明し同意を得られた脳卒中片麻痺者9名(年齢59.0±15.7歳,男性6名,女性3名,脳出血3名,脳梗塞5名,その他1名,右片麻痺4名,左片麻痺5名,下肢Brunnstrom-stage(以下BRS)III:1名,IV:3名,V:5名)を対象とした.対象選定の条件は理解力の指標としてFIMのコミュニケーション理解項目3点以上,視空間認知の指標としてSIASの視空間認知機能で3点以上の条件を満たし,BRSがIII~Vの装具および介助を必要とせずに距離8mを歩行可能な者とした.
足底にインク付フェルトを装着させ,両端に助走路1.5mを含めた距離8mの紙歩行路上を,装具を使用せず快適速度にて歩行した.測定は紙歩行路に残った足跡から距離因子として,重複歩距離,麻痺側ステップ長,非麻痺側ステップ長,歩隔およびそれぞれのCVを算出した.重複歩距離,麻痺側ステップ長,非麻痺側ステップ長,歩隔は5m間におけるすべての足跡から求めた値の平均値とした.それぞれのCVは5m間におけるすべての足跡から求めた標準偏差を平均値で除した値とした.測定は同日中に5回行い,5回の繰り返し測定における再現性を級内相関係数(Intraclass correlation coefficient,以下ICC)[1,1]を用いて検討した.
【結果】ICC[1,1]は重複歩距離0.92,麻痺側ステップ長0.94,非麻痺側ステップ長0.88,歩隔0.97,重複歩距離のCV0.68,麻痺側ステップ長のCV0.62,非麻痺側ステップ長のCV0.80,歩隔のCV0.67であり,いずれの項目でもsubstantial以上の値を示した.
【考察】距離因子におけるICC値は何れの項目でも測定可能レベルとされる0.6以上であった.今回用いた距離5mの歩行路における快適歩行速度での距離因子測定は,過去に報告した測定方法よりも臨床上簡便に用いることができ,かつ安全性への配慮などの点からも,脳卒中片麻痺者における距離因子の測定法となり得ると思われた.