抄録
【目的】前回の本学会において半側空間無視に対する治療法として、Rossettiらの報告したプリズムアダプテーション課題に加えロッドアダプテーション課題を開発し、これらの課題遂行が体幹正中位認知にどのように影響するかを検討した。その結果ロッドアダプテーションという簡易な方法で認知的変容をもたらしえる可能性があることを報告した。今回の研究の目的は、プリズム課題とロッド課題の施行後車椅子操作にどのような影響を及ぼすかについて検討を行うことである。
【対象】脳血管障害(脳出血)によるいずれも下肢Brunnstrom stage IIIの慢性期(発症から6ヶ月以上経過)左片麻痺3例。症例A(68歳女性、著明な左半側無視)、症例B(77歳女性)、症例C(80歳女性)であった。3症例とも右上下肢または右下肢にて車椅子操作が可能で院内は車椅子自走可能であった。被験者には研究の趣旨を説明し書面にて同意を得た。 【方法】車椅子閉眼正中位認知テストとして、車椅子座位の被験者から7メートル前方正面に5メートル幅両端に目印を設置し、アイマスクを装着しその中央(2等分点)に向かって自走させた。このテストは机上検査の線分2等分課題の車椅子版であり、メジャーにより中央からの偏倚を、1cm単位で5回計測した。このテストを後述のプリズム課題、ロッド課題、および対照課題の前後に施行した。プリズム課題は、右7度偏光のプリズム眼鏡を装着し、被験者の肩および上肢が見えないように布をかけた状態で、テーブル上正中位の棒を見ながらテーブル下方体幹正中位にある目標(棒)に対するリーチ動作を50回行った。ロッド課題は、同様にテーブル上で正中より右側に6cmずれた位置の棒(ロッド)を見ながら、テーブル下にある正中線上の棒を右手でつかむ動作を50回行った。またこれらの対照課題としてテーブル上下でロッド位置を合致させプリズム非装着条件で同様なリーチ動作を行った。
【結果】
車椅子閉眼正中位認知テストにおいて、左半側無視症例Aではプリズム課題施行前で左14.4cmが施行後右73.2cmを示し、ロッド課題施行前で右72.2cmが施行後左49.8cmと有意に左方向に偏倚し(p<0.05)、対照課題施行前で右66.4cmが施行後右22.4cmであった。半側無視を示さない他の2症例(B,C)ではどの条件でも著明な変化は認められなかった。
【考察】プリズムアダプテーション後に半側無視の机上検査だけでなくバランス機能などのほかの課題の改善を認める報告がある。今回の結果から、ロッドアダプテーションは特に半側無視例において車椅子操作における方向性を変化させる影響を持つことが示唆された。