抄録
【目的】ボイタの正常運動発達では、掴まり立ち、伝い歩きは四つ這いの連続動作と捕らえており、交互性の四つ這いが可能となれば短期間の内に掴まり立ちが可能となる。この発達段階では足はまだ支持器官として確立されておらず、手支持を用いることによって立位を保持している状態である。従って、この段階まで発達していれば、少なくとも杖での歩行が可能となるだけの全身の運動機能が獲得されていると言われている。そこで今回は、実際の臨床場面での各種の杖を使用しての歩行訓練の段階と運動発達の関係を調査してみた。尚、当園では四つ這い以上の運動機能を獲得しているケース以外には杖など使用しての歩行訓練は実施していない。
【対象】2004.4.1現在、当園にて治療継続中の脳性麻痺児は535 名(移動なし・腹這い・寝返り群:178 名、四つ這い・掴まり立ち・伝い歩き群:109 名、独歩群:248 名)であった。この内、四つ這いを経過しているが2004.4.1現在独歩不可能なケース109 名を対象として調査を行った。
【方法】過去に1度でも杖などを用いた歩行訓練を行った事があるケースの歩行訓練の経過と運動発達の変化の状態を調査した。杖歩行能力の分類は、屋内移動を使用する用具によって平行棒・歩行器・四点杖・ロフストランド杖の4項目に分け、それらの各項目をさらに介助・監視・自立の3段階に分類し、それに屋外移動の自立を加えた計13段階に分類した。運動発達の分類は同側性の四つ這い・交互性の四つ這い・台への掴まり立ち・壁での掴まり立ち・台での伝い歩き・壁での伝い歩き・独歩の計7段階に分類した。これらに分類した内で、杖歩行能力の最高到達機能によって自立群(屋内もしくは屋外の移動が杖歩行で自立しているケース)と非自立群(屋内の移動に際して介助・監視が必要なケース)の2群に大きく分類し比較検討を行った。
【結果】1.杖での歩行訓練を実施していたのは109 名中28名で全ケース痙直性両麻痺であった。2.上記28名中、自立群は8名、非自立群は20名であった。自立群の運動発達は8名中7名が壁での伝い歩き以上の機能を有していた。非自立群では1名が壁での伝い歩きが可能であったが、それ以外の19名は、台での伝い歩き以下の運動機能にとどまっていた。3.歩行訓練開始時の運動発達は非自立群の3名が同側性の四つ這いであった以外はすべて交互性四つ這い以上の機能を有していた。
【考察】発達運動学的には交互性の四つ這いが可能になれば、杖での歩行を獲得出来るだけの機能を有すると言われている。しかし、実際の臨床場面では、杖歩行での移動が自立する為には、壁での伝い歩き以上の運動発達が必要なのではないかと言う事が示唆された。この領域のケースの自立・非自立を分けたその他の要因に関しても検討が必要と考えている。