抄録
【目的】
私たちは日常の生活において様々な場面で身体を柔軟に適応させている。それは環境変化だけではなく,身体の変化においても環境に適応できる能力があると言える。今回,成人片麻痺者(以下片麻痺者)において身体の状況変化に対して経時的な環境への適応性を検討したのでここに報告する。
【対象】
外来リハビリに独歩で来院している片麻痺者2名。ケースA:年齢42歳,右片麻痺,発症からの期間は1年6ヶ月。ケースB:年齢54歳,右片麻痺,発症からの期間は1年5ヶ月。なお高次神経機能障害,痴呆を伴わない測定内容が理解可能な者を選出した。
【方法】
身体特性として車椅子幅(以下PW)と車椅子自走時の実用幅(以下DW),目の高さ(以下EL)の計測をした。実験の装置はポリエチレン製の平面板を4枚用いて壁を作り間隙を設定した。間隙は35cm~90cmまで5cm間隔に設定した。手順として車椅子に乗車し,押してもらいながら通る(以下W/C Push)のと駆動しながら通る(以下W/C Drive)のを想定し,視覚的判断(以下VG)の測定を乗車時(以下0分),3分後(以下3分),6分後(以下6分)で行なった。各々の時間の間はW/C Pushでは乗車しながら押してもらい,W/C Driveは駆動を行なっていた。VGは間隙を正面にしてEL×2の距離を観察点として壁に当たらずに通れるかどうかをできる,できないの二件法にて判断した。分析方法はWarren,W.Hの方法を用い,間隙の幅をAとするとπ=A/PWorDWとしπ数を算出した。両ケースにおいて算出したπ数において多重比較検定を行なった。
【結果】
ケースAのW/C Pushでは0分と6分,3分と6分に有意な差が認められ(p<0.01)π数の減少を示した。W/C Driveでは0分と3分,6分に有意な差が認められ(p<0.01)π数の減少を示した。ケースBのW/C Pushでは0分と3分,6分に有意な差が認められ(p<0.01)π数の減少を示した。W/C Driveでは0分と3分,6分に,また3分と6分に有意な差が認められ(p<0.01)π数の減少を示した。
【考察】
結果よりW/C PushおよびW/C Driveに経過と伴にπ数の減少を認めたことは,時間と伴に車椅子の通過幅に適合していったことを示唆している。しかしπ=1.0は6分後で確認されるため,新奇な身体環境の適合とそれによる環境への適応には一定の時間が必要とされるのかもしれない。片麻痺者に必要なことは周囲の環境と自らの行為とを適合させること,つまり行為を調整することの柔軟性を身につけることである。片麻痺者においてこの柔軟性の低下が今回の結果より伺える。今後の片麻痺者の行為を調整する柔軟性を確認する評価指標の方法として利用可能であると思われる。