理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 882
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神経系理学療法
脳卒中片麻痺患者の寝返り動作と座位動作との関連性について
*伊藤 恭兵森下 一幸阿部 郁代矢野 歩播井 宏充山口 紫穂宮崎 哲哉
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抄録

【目的】脳卒中片麻痺患者の寝返り動作では、麻痺側低緊張や連合反応により肩甲帯後退など特異的な肩甲帯の動きが観察される。また肩甲骨は脊柱を挟んで対称に位置し、自由度の高い運動が可能であることから、座位動作に影響を及ぼしていることが推察される。そこで今回、肩甲帯の動きに着目し、寝返り動作と座位動作との関連性について検討を行った。
【対象】調査に対して同意の得られた座位保持可能な脳卒中片麻痺患者18名を対象とした。男性11名、女性7名。脳梗塞12名、脳出血5名、クモ膜下出血1名。右片麻痺7名、左片麻痺7名、両側片麻痺4名。平均年齢70.4±8.3歳。発症からの平均経過日数44.1±47.5日であった。
【方法】寝返り動作の評価は、ビデオ撮影を用い背臥位より非麻痺側方向への寝返りを3回施行した。ランドマークは肩甲帯を肩峰,骨盤帯を上前腸骨棘とし、開始・終了動作部位より肩甲帯からの寝返り動作(以下肩甲帯群)と骨盤帯からの寝返り動作(以下骨盤帯群)の2群に分類した。座位動作の評価は、端座位での前方リーチを施行した。前方リーチは両手組みリーチと非麻痺側リーチを各3回施行し、リーチ距離を測定した。分析は各寝返り動作(肩甲帯群・骨盤帯群)と前方リーチ距離(両手組みリーチ・非麻痺側リーチ)との関連を対応のないt検定を用い検定した。
【結果】寝返り動作の分類は肩甲帯群8名、骨盤帯群10名であった。両手組みリーチでは肩甲帯群:33.0±9.6cm、骨盤帯群:22.7±10.7cmであり、有意な差が認められた(p<0.05)。非麻痺側リーチは肩甲帯群:32.5±8.9cm、骨盤帯群27.0±7.4cmであり、傾向はあったが有意な差として認められなかった。
【考察】各寝返り動作群と両手組みリーチ距離との間に有意差を認められた要因として、肩甲帯からの寝返り動作と両手組みリーチとの動作上の共通点に麻痺側肩甲帯の前方突出が挙げられ、肩甲帯の前方突出が可能な患者ほど両手組みリーチ距離が長い結果となった。また、骨盤帯からの寝返り動作では肩甲帯の後退が観察され、その結果、座位での両手組リーチ距離が短くなったと考えられる。今井らによると非麻痺側リーチで背筋群や非麻痺側下肢筋群の代償が起こると報告されており、各寝返り動作群と非麻痺側リーチ距離との間に有意差を認めなかった要因として、非麻痺側リーチ時の代償動作によりリーチ距離にばらつきが大きくなり,今回着目した麻痺側肩甲帯の前方突出との関係が希薄となったと考えられる。よって本研究より、肩甲帯の前方突出は座位での両手組リーチ距離に関係していることが示唆され、臨床において肩甲帯の前方突出に配慮したポジショニング・ROM訓練や寝返り動作訓練を行うことで、両手を使用する座位動作およびADL・APDL動作へとつながるものと考える。

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© 2005 日本理学療法士協会
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