抄録
【目的】筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動神経が選択的に障害され筋力低下が全身性・進行性におこる原因不明の神経疾患である。呼吸筋力低下による拘束性の換気障害に対して呼吸介助などの呼吸理学療法を実施しているが、球麻痺により上気道閉塞が生じると呼吸理学療法が困難になっていく場合も多い。今後の呼吸理学療法の参考にするため、球麻痺を伴ったALS患者に対する呼吸理学療法の現状を調査しまとめたので報告する。
【対象】当院入院及び在宅ALS患者で呼吸評価と同時期にALS機能評価尺度(ALS Functional Rating Scale:FRS)の球麻痺症状に関する評価を行っていた患者92名(男性48、女性44名、平均年齢63.4歳、気管切開患者は含まない)を対象とした。
【方法】呼吸機能として、%肺活量(%VC)・最大呼気流速(PCF)・最大吸気圧(PIM)・最大呼気圧(PEM)を、FRSは球機能として言語・嚥下・唾液分泌、上肢機能として書字、下肢機能として歩行の評価を理学療法診療録より調査した。また、呼吸理学療法実施時の状況について、実施が困難な手技・実施時の工夫などを担当理学療法士にアンケート調査した。なお同一患者で複数回評価している場合は、最も工夫が必要だった時点の評価を使用した。
【結果】1、%VCとPCF・PIM・PEMとはそれぞれ高い正相関を示しているが、%VCとPCFの関係は、FRSの言語や嚥下機能の低下と共に薄れていく傾向にあった。一方、FRSの唾液分泌・書字・歩行においてはその傾向はなかった。
2、呼吸理学療法実施時に予定していた手技全てができたケースは、FRSの言語・嚥下・唾液分泌が低下するほど減少する傾向にあったが、FRSの書字と歩行ではその傾向は小さかった。
3、実施が困難な手技としては、咳やハフィングの練習が多く、FRSの言語及び嚥下機能の2(0から4の5段階の中レベル)から困難となることが多かった。またFRSが0の重症例では、呼吸介助手技も困難なことがあった。
4、肩甲帯のモビライゼーションや体幹・頸部のストレッチなどリラクゼーション手技は、どの段階でも行うことができていた。
5、呼吸理学療法実施時の工夫としては、安楽な姿勢(47件41%)・呼気をゆっくり(24件21%)・短時間(19件16%)などが多く、FRSの言語や嚥下機能が重症になるほど坐位(軽度ベッドアップを含む)や側臥位で介入することが多かった。また、枕を高くしたり顔面を横向きにする工夫も行っていた。
【考察】球麻痺症状の進行に伴い、呼吸理学療法にいろいろな修正を加えている状況がより明確となった。%VCやPCFの評価をはじめ呼吸機能のみならず球麻痺の状態をより詳細に把握し呼吸理学療法に生かしていくことが重要と考える。