抄録
【目的】
 我々はこれまでに,膝痛を有する自立高齢者のための介護予防を目的とした運動プログラムを開発し,そのプログラムの有効性について報告した.本研究では変形性膝関節症(膝OA)を有する自立高齢者を対象に,脚筋力およびアライメントに対する運動介入効果を無作為化比較試験(RCT)によって検証したのでここに報告する.
【方法】
 対象者は東京都武蔵野市在住の膝OAを有する自立高齢者88名(男性12名,平均年齢77.8±5.4歳,女性76名,平均年齢73.2±5.3歳)で,膝痛の程度(WOMACスコア)により層化したブロックランダム割付を行い,介入群と対照群(各44名)に分けた.対象者には研究の目的と内容,利益とリスクなどについての説明を行ない,参加同意書に自筆による署名を得た.また,日本疫学会倫理委員会から研究実施の承認を得た(登録番号04001).介入群にはコンディショニングを目的とした低強度の運動プログラムを計8回(全3ヶ月)実施した.脚筋力の測定は等速度性筋力測定器(酒井医療社製,BIODEX SYSTEM3)を用いて,患脚膝関節屈曲・伸展筋力を角速度60(deg/s)にて連続3回測定し,最大トルク体重比(Nm/kg)を算出した.アライメントの測定は,膝関節裂隙にマーキングをし,ロンベルク足位をデジタルカメラにて撮影し,その画像から裂隙間距離(mm)を測定した.本研究の解析対象者は介入脱落者および身体的理由により測定が実施できなかった者を除き,筋力は介入群35名(男性5名,女性30名)と対照群36名(男性2名,女性34名)、アライメントは介入群35名(男性5名,女性30名)と対照群39名(男性2名,女性37名)であった.解析にはSPSS for Win Ver12.0を用いて,ベースラインでの群間の差をstudent's t検定,および介入前後の変化を反復測定分散分析(時点数2×群数2)により比較した.
【結果】
 ベースライン時の筋力は,膝伸展が介入群0.91±0.34Nm/kg,対照群1.08±0.44Nm/kg,膝屈曲が介入群0.52±0.19Nm/kg,対照群0.58±0.22Nm/kgで両群間に有意差はなかった(p=0.11,0.29).同様にアライメントは,介入群26.3±23.1mm,対照群22.3±17.7mmで,両群間に有意差はなかった(p=0.280).介入後,筋力は膝伸展が介入群0.97±0.36Nm/kg,対照群1.05±0.41Nm/kg,膝屈曲が介入群0.64±0.21Nm/kg,対照群0.55±0.18Nm/kgとなり,膝屈曲筋力において時間と群の2要因の間に有意な交互作用を認め(p=0.000),膝伸展筋力では傾向を認めた(p=0.069).またアライメントにおいては介入後、介入群30.9±25.4mm,対照群26.1±22.6mmとなり,時間と群の2要因の間に有意な交互作用を認めなかった(p=0.748).
【考察】
 以上の結果より,膝OAを有する自立高齢者に対する運動介入は脚筋力を明らかに改善させた.改善効果が得られなかったアライメントについては今後更なる検討が必要と考える.