抄録
【目的】THA術後では、外転筋力が十分にあっても跛行が持続することを経験する。跛行因子の把握には臥位だけではなく立位荷重時の動作分析をするのが望ましいが、測定機器が高価で、方法も簡便ではない。今回X線写真にて骨盤と体幹、股関節との関係について調査した。
【対象】片側性THA患者、女性21例、年齢59.9±9.5歳、術後経過期間41.7±19.4ヶ月。術前はすべて跛行(+)、現在跛行はなく杖無し独歩可能。THA群を患群とした。また正常女性10例、20股(以下正群)、年齢27.7±3.4歳を比較対照群とした。
【方法】2群とも対象者に内容を十分説明し、同意を得た上で、片側と両側の立位骨盤正面X線像を医師立会いのもと撮影し、股関節可動域、筋力、体重、脚長を測定し、クラウスウェーバー脊柱機能検査の3項目それぞれの得点を獲得率で表した。X線より骨盤腔の縦径と横径、骨盤挙上度を測定した。縦・横径では片側/両側で表し、それぞれ前傾指数、回旋指数とした。挙上角は非立位側骨盤挙上方向を正の値とした。患群と正群を有意水準5%で比較した。
【結果】1)脊柱機能検査(以下患群・正群)腹筋瞬発力57.1±27.2・95.0±5.1、腹筋持久力27.2±12.3・56.9±20.9、背筋持久力39.0±34.3・66.5±28.7、腹背筋すべて有意差あり。2)X線前傾指数(以下患・正)90.3±27.8・97.8±25.6有意差なし、回旋指数97.3±6.2・100.1±33.5有意差なし、挙上度2.3±4.8・0.1±5.9有意差あり、3)X線と股関節筋力との関係(以下有意な相関ありのみ記載)正群:前傾指数と外旋筋(0.75)、4)X線と体幹筋との関係正群:前傾指数と腹筋持久力(0.64)、挙上度と腹筋持久力(0.68)、5)股関節筋と体幹筋との関係正群:腹筋持久力と屈筋(0.80)、内転筋(0.64)、背筋持久力と屈筋(0.92)、伸筋(0.74)、内転筋(0.63)。
【考察】骨盤は身体の中心に位置し腰仙椎と股関節を連結する重要な部分であり、Hip-spine syndromeで示されるように、両関節の影響を受けやすい。脊柱筋では患群の3項目とも筋力低下著明で、術前よりの股関節機能不全による脊柱への影響が残存していた。X線3計測において患群では、正群に比べ骨盤変動が大きく、股関節筋力、体幹筋力も弱化し、有意な相関もなく、骨盤周囲の不安定さを示す結果となった。しかし、全症例跛行は存在せず、筋力低下のみが跛行因子ではないことの裏づけとなった。正群の前傾指数では、外旋筋と腹筋が関与しており、体幹と股関節間では、腹背筋と股屈筋が有意な相関を示した。逆に患群では屈筋、外旋筋、また体幹筋の弱化が目立った。手術侵襲によって外旋筋切除、さらに屈筋、内転筋も切離する場合があり、代償する他筋の強化の必要性を確認した。また正群で骨盤挙上度が少なく、外転筋との相関もなかったことから、静止立位での対側骨盤下降が、トレンデレンブルグ徴候陽性とは限定できず、実際の歩行動作の中で確認することが重要であると再認識した。