抄録
【目的】関節拘縮は理学療法士が日常的に扱う症状の一つであり、比較的短期間で起こりうる病態である。一度生じた拘縮の改善は困難であることから、臨床の場面では予防への重要性が指摘されている。そのため関節拘縮について多くの研究者によってその病態が組織学的に検討され、近年、理学療法による関節拘縮の予防に関する研究報告が注目を集めている。今回、関節拘縮に対する効果的な理学療法を検討していくため、ラット実験的関節拘縮モデルの作成を行い、組織学的に検討を行った。
【方法】実験動物は12週齢のWistar系ラット(雄)を用いた。関節拘縮の作成法は、右大腿骨および脛骨の膝関節から離れた位置にそれぞれ2本のキルシュナー鋼線を前額-水平軸に沿って貫通させ、各キルシュナー鋼線を接合し膝関節を屈曲90°に固定した。左膝関節は固定せず自由に関節運動ができる状態とし、これを対照脚とした。ラットはケージ内で自由な移動が可能であり、水、餌は自由摂取とした。感染防止のためケージはHEPAユニットを設置したクリーンラック内に入れ、クリーン度100クラスの環境下で飼育した。処置2週間後、エーテル麻酔下に関節可動域をデジタルカメラで撮影した後、安楽死させて両膝関節を採取し、組織標本を作製した。関節可動域は撮影した画像からNIH Imageを用いて測定した。組織切片はヘマトキシリン・エオジンにて染色し、光学顕微鏡下で関節組織を観察した。
【結果】膝関節の屈曲角度は、対照脚が134.2±1.4°(mean±S.D.)、固定脚が94.6±4.6°であった。伸展角度は、対照脚が-32.2±1.4°、固定脚が-80.6±3.3°であった。組織では、対照脚と比較して固定脚では関節包の厚さの減少、滑膜細胞と脂肪細胞の減少、および滑膜下層の線維組織の増殖が認められた。また、浮腫や炎症は見られなかった。
【考察】ラットを用いた実験における関節固定法は、ギプス固定と侵襲的関節内固定が多く用いられている。ギプス固定は関節炎などの発生を予防し、巻きかえが可能であり、また、関節内固定は強固な固定力が得られる。しかし、各々それらの方法のアーティファクト的影響として浮腫や侵襲などが指摘されている。今回、我々のキルシュナー鋼線を用いる方法は浮腫や炎症が見られず、侵襲による影響を最小限にし、拘縮モデルの作成法によるアーティファクトを回避することができた。また、関節拘縮の特徴である関節可動域の減少、組織学的特徴も認められた。本関節固定法は関節の固定角度を自由に設定でき、関節拘縮の研究に対して様々な条件設定が可能であるため、関節拘縮に対する効果的な理学療法を検討していくための実験的関節拘縮モデルの作成法として、有用であると思われる。