抄録
【緒言】人工膝関節全置換術(TKA)は疼痛の除去、アライメントの修正、歩行能力の改善などが期待できる術式である。TKAの術後評価としては主に、JOAスコアー、X線、関節可動域(ROM)、筋力、歩行能力などが挙げられる。これらの評価項目は特に、術前・術後の比較検討に広く汎用されている。TKAの治療成績は、多くが良好であると報告されている。一方で我々は、自宅退院後に退院時点でのROM、特に術側膝伸展可動域が維持できていない症例をしばしば経験している。我々は一つの原因として、両側変形性膝関節症の症例が、一側TKA後に非術側の屈曲拘縮、内反変形の残存により見かけ上の脚長差を認めることに着目した。術側が長くなる症例では、術側膝関節軽度屈曲の立位姿勢をとる。また歩行時では、術側荷重時に膝関節は最大伸展を得られないという現象も認めている。術側膝関節は常時軽度屈曲位を呈し最大伸展を得る機会が減少することで、退院時の膝伸展可動域が維持できなくなるのではないか、と仮説を立案した。
【目的】一側TKA後に脚長差を生じた症例に、退院時に獲得された術側伸展可動域を長期的に維持させていくための手段として、補高靴を使用している。当院での取り組み、および短期的な経過を報告する。
【症例】症例1:74歳女性。当院にて平成16年5月に右TKA施行。術前FTAは左右ともに182°、膝伸展可動域は右-20°、左-15°。術後脚長差は2.0cm。症例2:74歳男性。当院にて平成16年5月に右TKA施行。術前FTAは右195°・左190°、膝伸展可動域は左右ともに-10°。術後脚長差は1.5cm。
【方法】術後1日目より術側膝ROM訓練開始、全荷重にて車椅子移乗許可。歩行練習は術後5日目より可及的全荷重にて開始。歩行練習では脚長差を認めていたため、症例1では2.0cm、症例2では1.5cmの補高を非術側に行った。術後4週前後で退院、月1回の外来受診とし、その間、補高靴を使用して生活するよう指導した。屋内でも可及的に補高靴を使用するよう指導した。また、術側膝ROM訓練の自主訓練指導も行った。評価として、退院時、術後2ヶ月・3ヶ月および6ヶ月での膝伸展可動域を測定し、退院時と術後2ヶ月・3ヶ月・6ヶ月での比較検討を行った。
【結果】症例1:術後膝伸展可動域-5°、2・3・6ヶ月後ともに-5°。症例2:術後4週時伸展可動域-5°、2・3・6ヶ月後ともに-5°。退院時と比較して、2例ともに2ヶ月・3ヶ月・6ヶ月に術側膝伸展可動域の低下を認めなかった。
【考察】非術側へ補高靴を使用して生活することは、退院後も術側膝伸展可動域を維持することができるのではないかということが示唆された。今後は、さらに症例数を増やして補高靴の有用性を検討していきたい。