抄録
【目的】転倒の誘因は大きくふたつに分類できる。一つは、つまずくなど動作の失敗により転倒する内的要因である。もう一つは、滑るなど環境に問題があるため転倒する外的要因である。転倒予防のための運動療法はこれらふたつの原因に対してアプローチする必要がある。外的要因に対するアプローチは外乱刺激を用いることが一般的であり、セラピストが押したり床面を動かしたりする方法がある。床面を動かす方法は姿勢保持の基礎研究で用いられてきたが、臨床での運動療法としてはあまり用いられていない。今回我々はOG技研製の外乱刺激装置である水平揺動運動装置の試作機を使用する機会を得たので、外乱刺激中の筋電図を計測することで臨床応用の可能性について検討することとした。
【方法】対象は健常成人男性3名とした(年齢22.3±1.5歳、身長172.0±2.6cm、体重74.0±24.2kg)。外乱刺激装置は、床面が一方向に水平移動するタイプであり、振幅を80mmに設定した。振幅速度の違いが筋活動に及ぼす影響を検討するために、振幅の1周期を1.4、2.2、3.0Hzの3段階に設定した。また、起立方向を変えることで床面の前後動揺と側方動揺の違いについても検討した。筋活動は右側大殿筋、中殿筋、大腿直筋、大腿二頭筋、前脛骨筋、腓腹筋を対象に表面筋電図にて計測した。動揺する床面上に加速度センサーを設置することで動揺周期を計測し、3周期分の筋活動電位積分値を時間で正規化した後に比較した。
【結果】筋電図生波形の観察から、前後動揺では基本的にすべての振幅速度でankle strategyの波形が確認でき、側方動揺では中殿筋に振幅に合わせた周期的な筋活動が確認できた。振幅速度の違いが筋活動電位積分値に及ぼす影響を分析したところ、前後動揺では振幅速度の増大に伴い特に前脛骨筋と腓腹筋の活動電位が増大しており、1.4Hzと3.0Hzとの比較では前脛骨筋で8.1倍、腓腹筋で3.8倍と増大していた。それに対し、大殿筋では1.1倍と活動電位の増大は少ない結果となった。また、同様に側方動揺では中殿筋の活動電位の増大が3.6倍と大きく、前脛骨筋で5.5倍、腓腹筋で3.0倍と足関節の筋も活動量が増大していた。
【考察】今回の試作機で用いた動揺速度は22.4~48.0cm/sであり、先行研究と比較するとやや低速であるためhip strategyは出現しなかったものと思われる。今回の結果から、床面動揺速度が増大するにつれ、筋活動量は概ね増大する傾向にあり、また、筋活動の切り替えも速いタイミングを必要とした。床面を動揺させた場合、高齢者や脳卒中患者では筋活動の量的な減少と時間的な遅延がみられると報告されている。本機器を用いた比較的安全な環境で、外乱刺激に対する姿勢保持に必要な筋活動量とタイミングを段階的に練習することで、転倒発生の外的要因についてアプローチできる可能性があることと思われた。