抄録
【はじめに】人工膝関節全置換術(以下TKA)後のリハビリテーションにおいて、関節可動域(ROM)の獲得は最も重要な目標のひとつである。TKA後のROM不良例でのROM制限因子を判断する場合、理学療法の場面では関節内を実際に覗くことはできず、触診や屈曲最終域での終末感などから判断せざるを得ない。また、膝屈曲制限を呈した症例の関節内所見を報告しているものは少なく、実際にどのような制限因子が関節内に存在しているかを知ることは、ROMの拡大に対する理学療法介入を考えるうえで重要と考える。今回、TKA術後に重度の膝屈曲制限を呈した症例の観血的関節授動術を見学し、術中所見よりROMの制限因子に関する若干の知見を得たので、報告する。
【症例紹介】症例は、左変形性膝関節症および肥満の診断を受けた70歳の女性(身長146cm、体重69kg、BMI32.4)である。平成10年頃より左膝痛が出現するも改善せず、平成15年12月に左TKAを施行したが、術後に重度の膝屈曲制限が残存した(膝屈曲他動ROM65°)。平成16年7月、ROM改善目的に観血的関節授動術を施行した。なお、今回は個人の特定を避けるため、施設および入院経過等の詳細な日付は記載していない。
【倫理面】手術見学および術中の写真撮影については、本人に主旨を説明し同意を得て行った。また、本演題の発表に際し、本演題の主旨・内容の説明、および情報の公開により本人が特定されないよう配慮する旨を説明し、承諾書を得た。
【術中所見】手術開始時の膝屈曲ROMは50°であった。はじめに外側支帯を切離し関節内を露出したところ、膝屈曲ROMは80°となった。次に関節内の癒着等を検索し、膝蓋上嚢に線維柱による癒着を認めたため剥離したところ、膝屈曲ROMは95°となった。その後、大腿骨外側谷部に認めた癒着を剥離し、最終的に術中膝屈曲ROMは130°まで獲得された。膝蓋腱周辺および膝内側谷部での癒着は軽度であった。
【術後経過】関節授動術後翌日より理学療法を開始し、開始時の膝屈曲ROMは50°であった。術中所見にて癒着を認めた膝蓋上嚢、膝外側谷部付近を中心に軟部組織モビライゼーションおよび膝蓋骨モビライゼーションを重点的に行い、再拘縮の予防、ROMの拡大に努めた。術後2週にて退院となり、退院時の膝屈曲ROMは95°であった。
【考察】整形外科において関節授動術はよく行われる手技であるが、具体的な癒着の部位や癒着剥離によるROMの改善度合いに関する情報は、あまり理学療法分野へ提供されていない。本症例での関節内癒着は膝蓋上嚢と大腿骨外側谷部にみられたが、特に最終可動域を得るのに外側谷部の癒着剥離は著効であった。術中所見より、TKA後の理学療法介入として、膝外側構成体の可動性を考慮したアプローチの重要性が示唆された。